2012年5月31日木曜日

東京乾電池「誰か、月光 恐怖・ハト男」

2012年5月30日 19時開演 下北沢本多劇場
作:加藤一浩
演出:柄本明
出演:江本時生、山地健仁、茨木真之介、戸辺俊介、西田静史、江本明、飯塚祐介、山肩重夫、綾田俊樹、血野滉修、川崎勇人、吉橋航也、田中洋之助、伊東潤
昔、昔、渋谷の山手教会の下にジャン・ジャンがあった頃、そこで見た東京乾電池は、死ぬほどおもしろかった記憶があります。わけは全くわからなかったけれど、ただひたすらおもしろかったのです。
30数年たって、彼らはさらに進化しました。わけがわからない上に、おもしろいのかどうかもわからなくなったのです。
あまりのわけのわからなさに、途中で何分か寝てしまったほどです。
このブログは、感想をメモして芝居を見続けるモチベーションを保つために始めたものですが、ここにきて「感想をメモするにも、言葉にならない」芝居に出逢ってしまいました。
雑居ビルの5階のエレベーターホール、わけありげな男達が出入りして会話を交わしていく。商品の移動を頼まれたが、依頼主が現れず途方にくれる便利屋、絵本作家の書斎に住み着いているアルバイト達、妻がスペインに行ってしまい連絡が取れなくて困惑するサラリーマン、有名らしい皮膚科にやってきた兄弟、漫画喫茶に済んでいるような中年男、殺人があったようななかったような。ハトの怪人がいるような、いないような。突然、ラストはかっぽれを踊っておしまい。
特に芝居がうまい人がいるわけでもなく、不思議なムードだけが全体を覆っている。
東京乾電池の芝居は、あの不思議なムードを楽しむものなのでしょうか?
私には、わかりません。
次回公演を見に行くべきなのか、見なくてもよいのか、それすらもわかりません。

2012年5月26日土曜日

バナナ学園純情乙女組「バナ学シェイクスピア輪姦学校(仮)(仮)(仮)」

2012年5月25日 17時開演 王子小劇場
構成・演出:二階堂瞳子
出演:加藤真砂美、野田裕貴、前園あかり、浅川千絵、あに子、飯田一期、石黒淳士、石澤希代子、今野雄二、海田眞祐、大川大輔、高麗哲也、紺野タイキ、嵯峨ふみか、サノケイコ、七味まゆ味、Jaamil Kosoko、高田百合絵、高村枝里、田中正伸、出来本泰史、中林舞、楢原拓、橋本和瑚、長谷川雅也、林田亮、引野早津希、日高愛美、保坂藍、堀越智太郎、三塚瞬、山田伊久麿、山森信太郎、吉原あおい、吉原小百合
昔、昔、私がまだ高校生だった頃、「アングラ演劇」「アングラパフォーマンス」と呼ばれた演劇がありました。元々の理屈は、その当時欧米に留学していた人たちが持ち帰ったものだと思うのですが、物語のストーリーやテーマ、役者の演技論などよりも、「生の肉体」「生の感情」を観客にぶつけることが大事だとして、裸になったり火を噴いたり、叫び回ったりしていました。音楽のパンクロックに近いものがあると思います。
今回のバナナ学園は、まさにこれです。始まってすぐ、「これは、オタ芸によるアングラ演劇の復活だ。」と、思いました。
びしょ濡れになるほど、水が降る。水だけでなく、ワカメまで降る。たいまつは燃える。花火が上がる。爆竹が爆発する。紙吹雪はまかれ放題。
マイクに向かって叫んでいるが、何を言っているのか全くわからない。
とにかく、マイクに向かってなにか叫んで、大勢でオタ芸で踊る。この繰り返しが、猛スピードで突き進んでいきました。
本番中は、とにかく次に何か起こるのかわからないので、はらはらわくわくしながら、見ていただけでしたが、終演後、冷静になって考えてみると、あの複雑な構成と、ハイスピードな展開をスムーズに行うために、かなりのハードトレーニングがあったと推察されます。役者達は自分の感情を思う存分爆発させられて、一番楽しかったのではないでしょうか。
今回の芝居がおもしろかったと言うよりも、今後、バナナ学園がどのような方向に進んでいくのか、よりパワーアップするのか、方向転換するのか、はたまた、失速してしまうのか、見届けるまで見続けたいと思います。

2012年5月19日土曜日

コーヒーカップオーケストラ「チャンス夫妻の確認」

2112年5月19日 14時開演 王子小劇場
作・演出:宮本初
出演:宮本初、前田昂一、後藤彗、モリサキミキ、田中慎一郎、ともい江梨、椎橋綾那、上山光代、後藤陽子、鹿島ゆきこ、長瀬みなみ、竹田りさ、赤本颯、菅山望、川島啓嗣、皮墓村、ヨウラマキ
作・演出の宮本初が前回見てとてもおもしろかったはえぎわの演出助手をしていたと言うことで、結構期待して見に行ったのですが、結果は残念の一言。
テンポは悪いし、ギャグは寒い、物語はつまらない。よいところが見当たらないできばえでした。何しろ役者がおもしろがってやっていないというか、与えられた台詞を繰り返しているだけという感じでした。
物語の作り方にはえぎわの影響が見えるのですが、批評なき真似は本家の劣化版にしかならないという見本のようでした。
チラシに「馬鹿馬鹿しい物語をストイックに追求していきたい」とありましたが、こういうことを公言している劇団は、言うほどでもないところが多いようです。
次回公演は見に行かないつもりです。

はえぎわ「I'm here」

2012年5月17日 19時30分開演 地も北沢ざ・スズナリ
作・演出:ノゾエ征爾
出演:井内ミワク、町田水城、鈴真紀史、滝寛式、竹口龍茶、踊り子あり、川上友里、鳥島明、富川一人、山口航太、ノゾエ征爾、金珠代、萩野肇、鈴木将一朗、笠木泉
この劇団を見ることに決めたのは、どーんと大きく写ったプールのチラシがすてきだったからです。どんな芝居をするのか予備知識ゼロで見ましたが、思いもよらず、素晴らしい観劇になりました。自己紹介から始まり、なぜか全員追い詰められた状況にあることがだんだん明らかになります。場面転換は素早く、時間はめまぐるしく過去と現在を行ったり来たりします。会話にはユーモアとペーソスがあふれ、よくわけはわからないのだが、ぐいぐい物語の中に引き込まれてしまいました。
ラストでは、全員、結構大変な状況にいるけれど、それでも私たちはここにいる。「I'm here」と自己紹介をもう一度して、終わります。うまく言葉にしていえないけれど、少し感動しました。
次回公演も是非見たいと思います。

2012年5月17日木曜日

イキウメ「ミッション」

2012年5月16日 19時30分開演 シアタートラム
作:前川知大
演出:小川絵梨子
出演:渡邊亮、浜田信也、井上裕明、岩本幸子、安井順平、太田緑ロランス、伊勢佳世、盛隆二、森下創、大窪人衛、加茂杏子
以前、イキウメの「散歩する侵略者」のゲネプロを見る機会があって、その時、場面転換で芝居がクロスフェードする演出に感心したのが、今回の観劇の動機でした。
「ミッション」では、芝居自体のクロスフェードはありませんでしたが、場面転換の道具の移動を役者が実にスムーズに行って、転換による集中力の途切れを感ずることなく、2時間の芝居を一気に見ることができました。おかげで、終演後一度に足腰のこわばりを感じて、しばらく動けませんでした。
いかに他の芝居では、転換により集中力が途切れているか、考えさせられました。こんなに丁寧な演出は、この劇団ならではと思います。「平凡な日常生活に、ささやかな違和感が知らず知らずのうちに入ってきて、いつの間にか新しい世界が見えてくる。」というのがテーマだと思うのですが、結構さりげなく描かれているので、うっかりすると単なる家庭劇と思ってしまいそうです。
役者では、妙に賢くて独善的ないやな奴を演じた大窪人衛が目立っていました。
今後も、注目していきたいです。

2012年5月16日水曜日

劇団桟敷童子「改訂版 軍鶏307」

2012年5月15日 19時30分開演 すみだパークスタジオ
作・演出:東憲司
出演:中井理恵、稲葉能敬、鈴木めぐみ、大手忍、山本あさみ、川原洋子、外山博美、徳留香織、椎名りお、もりちえ、新井結香、原口健太郎、桑原勝行、深津紀暁、井上昌徳、橋本克己、板垣桃子
つい字面だけを見て、いきおいで「ざしきわらし」と読んでしまいますが、正しくは「さじきどうじ」だそうです。
私の中では、状況劇場→新宿梁山泊→桟敷童子とつながる唐十郎派閥の劇団というイメージでした。もちろん、そんな派閥があるわけではなく、あくまで私の中での勝手な想像に過ぎません。
今回、初めて見に行ったこの劇団に対する興味は、唐十郎好き三代目の演劇人が、どんな芝居を見せてくれるのか、ということでした。唐十郎の物語性、ロマンチックさを、どんな新しい地平で見せてくれるのかというのが、観劇前の私の勝手な期待でした。
観劇後の私の感想は、「これは演歌だ」という一言に尽きます。反戦、反体制にまで突き抜ける、息子を思う母の狂気をテーマに、ラストに大仕掛けな装置を出してお客を圧倒して終わらせる。
一見、ドラマチックでダイナミックなテーマと展開に見えますが、実際は先のストーリーがすぐ読めてしまう予定調和的な芝居になっていました。
きっと、作・演出の東憲司は確信犯なのだと思います。日本人の心情を揺さぶるエピソードを並べて、最後に大仕掛けな脅かしを見せてカタルシスを与えれば、オーケーを考えているように見えます。妙に前舞台が狭く、書き割りで奥を隠し続ける装置も、ラストに大物が出てくることが容易に想像できますし、それが飛行機であることも「希望の飛行機の塔」という台詞でわかってしまいます。何よりも、オープニングの竹槍訓練の場面が説明的すぎて、単調で退屈でした。あそこがもっと、わけがわからない演出なら先の展開が読めなくて興味が持てたのかもしれませんが、あそこで、70%くらいストーリーがわかってしまうのは、いただけません。
まるで、無法松の一生の母版のような「演歌」な芝居でした。次回公演は、見に行かないと思います。

2012年5月6日日曜日

サンプル「自慢の息子」

2012年5月2日 19時30分開演 駒場アゴラ劇場
作・演出:松井周
出演:羽場睦子・古館寛治・古屋隆太・奥田洋平・野津あおい・兵藤公美
第55回岸田戯曲賞受賞作品の再演公演だいうことは、観劇後に読んだパンフレットで知りました。先入観を持たずに見られたのは、よかったかもしれません。
自分の部屋にぬいぐるみの王国を作る引きこもりの男、徘徊症で夜は街角に立つ母親、殺人衝動を抑えられない兄、そんな兄に依存している妹、いもしない赤ちゃんの洗濯をし続ける隣の女、全員、現実と妄想の間で宙ぶらりんになり、身動きがとれないでいる。兄と妹は、引きこもりの王国に身を寄せることで再起を果たそうとするが、兄は隣の女のいもしない赤ちゃんの二代目になることで新しい妄想を獲得し、妹は引きこもりと結婚することで、新たな依存を獲得する決意をする。物語は、ラスト、現実と妄想の間で身動きできない彼らを象徴するように、ストップモーションで暗転する。妄想のツアーガイドをする宅配便の男は、母親と結婚すると表明することで、現実と妄想、両方を引き受けることを表しているようだ。それは、作者の意志を表しているのかもしれない。
次回公演もぜひ、見たい。

2012年5月2日水曜日

ナイロン100℃「百年の秘密」

2012年5月1日 19時開演 下北沢本多劇場
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、峯村リエ、萩原聖人、山西惇、大倉孝二、近藤フク、田島ゆみか、廣川三憲、松永玲子、長田奈麻、みのすけ、村岡希実、藤田秀世、水野小論、猪股三四郎、小園茉奈、安澤千草、伊与勢我無、木乃江祐希、
私の中のケラリーノ・サンドロヴィッチのイメージは昔、有頂天でチューリップの心の旅を変なハイテンションで歌っていたときのものでした。初めて見るナイロン100℃の芝居も勝手にハイテンションなものだと思っていました。
しかし、実際の芝居は構成力に富んだ落ち着いたものでした。みんな演技はうまいし、要所要所で現れる映像演出も今まで見た中で一二を争うほど素晴らしいものでした。
でも、もう一度ナイロン100℃を見たいかと考えると、「もう十分だ。」しか思えません。
私が芝居で見たいのは、ある種の「過剰さ」なのだと知りました。バランスをくずしても何かを追求している様を見たいという気持ちがあります。それは、「若さ」と呼べるのかもしれません。3時間半という長丁場を飽きずに見終わって、満足はしているのですがそんな想いが心を離れません。
おもしろかったと思いつつも、また見たいとは思わなかった。初めての体験でした。
役者の中では、コナ役の峯村リエが押さえた演技で特に素晴らしかったです。