2013年6月26日水曜日

2013年第二四半期観劇のまとめ

4月3日 テアトル・ド・アナール「従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“─およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語」テアトル・ド・アナール「従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“─およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか?という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語」
4月4日 ブルドッキングヘッドロック「少し静かに」
4月10日 犬と串「左の頬」
4月17日 Straw&Berry 「マリア」
4月22日庭劇団ベニノ「大きなトランクの中の箱」
4月23日水素74%「半透明のオアシス」
4月24日 「レミング」
4月25日  泥棒対策ライト「あーあ」

5月8日ミームの心臓プロデュース公演「focus」
5月9日 少年社中「ラジオスターの悲劇」
5月14日 酒とつまみ「もうひとり」
5月15日イキウメ『獣の柱 ~まとめ*図書館的人生(下)~』
5月20日 離風霊船「マインド2013」
5月21日ハイバイ「て」
5月22日 いやむしろわすれて草
5月24日 ポップンマッシュルームチキン野郎「仏の顔も三度までと言いますが、それはあくまで仏の場合ですので」
5月25日 トリのマーク「湖畔の探偵全6話」
5月27日 ロロ「ミーツ」

6月10日 千葉雅子×土田英生 舞台製作事業「姐さん女房の裏切り」
6月11日 はえぎわ「ガラパコスパコス」
6月12日 城山羊の会「効率の優先」
6月12日 おぼんろ「ビョードロ」
6月19日 岡崎藝術座「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」
6月20日 こゆび侍「きれいなお空を眺めていたのに」

4月から6月の観劇本数は、24本でした。
その中のベストスリーは、青山円形劇場の「いやむしろ忘れて草」、ロロの「ミーツ」、はえぎわの「ガラパゴスパコス」でしょうか。結構ナイーブに人間の情感を描いた作品が心に残っています。
次点としては、テアトル・ド・アナール、庭劇団ベニノ、イキウメなどの、少し癖のある硬派な芝居が気になりました。
この1年間以上、「自分の知らない小さな劇団の芝居を見に行く」ことを、大きなポリシーとしてきましたが、ここにきて少しくたびれてきたようです。全く知らない芝居を見に行って、その出来が残念だっったときのショックが結構大きく響きます。このままでは、芝居を見にいかなくなる恐れも出てきそうです。
7月からは、少し方針を変えて、明確に見たい理由がある芝居を中心に見ていこうと考えています。

こゆび侍「きれいなお空を眺めていたのに」

2013年6月21日 14時開演 王子小劇場
作・演出 : 成島秀和
出演:日暮玩具、佐藤みゆき、小野寺ずる、勢古尚行、墨井鯨子、廣瀬友美、白川哲次、小園茉奈、富山恵理子、鳥口綾、近藤茶、篠原彩
前日に見た岡崎藝術座に比べるとずいぶんオーソドックスな芝居でした。世界の終わりがくるという予感の中で、本当に大切なものは何かということを探るということがテーマでした。それを見つけたところで、本当に終わりがくるという結末なのですが、私たちは、3.11以降世界に終わりがこない、どんなにひどいことが起きても世界は続いていくということを思い知らされたのだと思います。それは、ひょっとしたら終わりがあるよりもさらにひどいことなのかもしれません。その認識がないところが、この芝居が今ひとつ響いてこない原因のような気がします。

岡崎藝術座「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」

2013年6月20日 19時30分開演 北品川フリースペース楽間
作・演出 : 神里雄大
出演:鷲尾英彰、稲継美保、小野正彦、藤井咲有里、大村わたる
この芝居で一番気になったのは、役者による照明のつけ消しでした。どのシーンも役者が幾つかぶら下がっている照明のどれかのスイッチを引いて始まり、そのシーンが終わると再度スイッチを引いて照明を消すということの繰り返しが基本でした。なぜそうなってしまったかというのは、この公演が始まる前に照明デザイナーと話す機会があって、地方公演があること、それらが通常の劇場空間ではないこと、予算のことなどで、照明がついていかなくても仕込めて、オペレートできるような形にする必要があることなどは知っていましたが、いざ、本番を見てみると文章上に無駄に多くの鍵カッコ「」があるようで、とても気になりました。もっとも、そんなことを気にするのは、照明家だけかもしれません。
岡崎藝術座は、2,3年前に「リズム三兄弟」の公演の仕込とリハに付き合ったことがあって、その時の印象は、「日本語の解体と、再構築により新しい文体を創り出す。」ことを目指しているのかなというものでした。その後の公演はすべてスケジュールが合わず、本当に久しぶりの観劇でした。
今回の内容は、アガサクリスティの「ブラックコーヒー」と、少女誘拐監禁事件と、ボストンマラソンテロ事件を下敷きにしたもので、特徴的なのは、すべて当事者ではなく、その周りの人々の証言という形で構成されていることです。その結果、浮かび上がってくるのは言葉の暴力性や、人間関係の暴力性です。それらの言葉は、時には力強く、時にはいやらしく観客に迫ってくるのですが、どうも演劇の言葉ではないような気がします。脚本を購入して読み込んだ方がより良いのではないのかという気がしてなりません。

2013年6月14日金曜日

おぼんろ「ピョードロ」

2013年6月12日 19時30分開演 日暮里d-倉庫
脚本・演出 : 末原拓馬
出演:末原拓馬、わかばやしめぐみ、高橋倫平、さひがしジュンペイ、林勇輔
今時珍しい丁寧な前説から始まるファンタジーでした。ストレートな愛の物語で、そのストレートさ加減も今時珍しいものでした。丁寧な前説と言い、わかりやすいラブストーリーといい、あまり芝居を見たことのない若い女性客をターゲットにしているように見えます。
しかし、段ボールやペットボトルで手作りした装置を自ら自慢するのはどうでしょう。自虐的すぎて、引いてしまうお客さんもいそうです。
目標は、観客動員を5万人にしてシアターコクーンで1ヶ月公演することだそうですが、頑張ってくださいとしか言いようがありません。

城山羊の会「効率の優先」

2013年6月12日 15時開演 池袋東京芸術劇場シアターイースト
作・演出 : 山内ケンジ
出演:金子岳憲、松本まりか、岡部たかし、松澤匠、白石直也、吉田彩乃、石橋けい、鈴木浩介、岩谷健司
前回の公演「あの山の稜線が崩れていく」を見た時には、結構骨太の不条理劇という印象だったのですが、今回の芝居は不条理劇としては、線が細すぎて納得できるものではありませんでした。その主な原因は、演技の質にあると思います。登場人物たちの演技が弱くてリアリティが感じられません。それが不条理を成立させていない一番の原因だと思います。あれでは、「なんだかなあ。」という感想が浮かぶだけで、不条理劇特有の不気味な肌触りは、生まれてきません。
いや、ひょっとすると、あれは不条理劇ではなかったのかもしれません。少しづつおかしい登場人物たちが、会社での「仕事」と、個人的な恋愛感情の間で揺れ動いて殺人を冒してしまう。それだけの話なのかもしれません。それにしても、女部長役の芝居が弱すぎて、納得がいきません。そして、ラストのセックスシーン、あれは何だったのでしょうか。舞台であんなに生々しいセックスシーンは始めて見ました。あの演出は何だったのでしょうか。あれこそが不条理です。

はえぎわ「ガラパコスパコス」

2013年6月11日 19時30分開演 三鷹市芸術文化センター星のホール
作・演出 : ノゾエ征爾
出演:柴幸男、井内ミワク、滝寛式、鳥島明、川上友里、踊り子あり、笠木泉、町田水城、ノゾエ征爾、たにぐちいくこ、新名基浩、鈴真紀史、山口航太、竹口龍茶、金珠代、松森モヘー、萩野肇
当日パンフによれば、はえぎわはここ4年間ほど老人ホームでの芝居公演を定期的に行っているようです。その経験がこの芝居の基本的な部分や、前回の公演を見た時に感じた「視線の公平さ」を生み出してるようです。「老い」というものを見つめて、そのまま受け入れるということは実践することも、表現することもかなり難しいですが、この芝居での基調音となってすべてをまとめていいるようでした。
それにしても、「チョークとそれで描ける壁面さえあれば、演劇はできる」という芝居は、初めて見ましたが、実に面白いものでした。徐々にへたうまな絵や、言葉で埋め尽くされて行く壁面が、芝居全体に一種寓話的な雰囲気を与えて面白い効果を与えていました。
ラストの主人公が引きこもりから世の中に出て行く決心をして、ピエロの衣装からスーツにネクタイに着替えるシーンでのボレロの音楽と振りは、ほぼ完全に映画「愛と喝采の日々」のラストシーンでの20世紀バレー団のパクリで、ノゾエ征爾が素直なだけでなく、結構図太い神経の持ち主であることが覗き見えて面白かったです。

2013年6月11日火曜日

千葉雅子×土田英生舞台制作事業「姐さん女房の裏切り」

2013年6月10日 19時30分開演 小竹向原サイスタジオコモネ
原案・出演:千葉雅子
作・演出・出演:土田英生
MONOの土田英生と、猫のホテルの千葉雅子による新ユニット。当日パンフなどを読んでみると、どうも二人芝居を継続的に続けて行くつもりのようです。
それにしても、土田の千葉に対する優しさに溢れた脚本には、少しびっくりさせられました。元々達者な脚本家だとは思っていましたが、対象が一人に絞られるとここまで優しくなれるのかと驚きました。優しすぎて、少し説明しすぎな感じもあったのは、残念です。
千葉は、20年以上自分のせいで隠れて暮らすこととなった年下のダメ男を憐れに思って尽くすが、ある日、ほとほと愛想が尽きる年上女房を頑張って演じていましたが、元々の資質にないのか、あっさりしすぎの感は否めませんでした。それに比べて、土田は、悪人顔なのに中身は全くの子供で相手の気持ちがわからないダメ男を演じて生き生きとしていました。
せっかく始めた新規事業なので、二人芝居の限界を打ち破るような企画に挑戦してもらいたいものです。

ロロ「ミーツ」

2013年5月27日 19時30分開演 こまばアゴラ劇場
作・演出 : 三浦直之
出演:板橋駿谷、亀島一徳、望月綾乃、伊東沙保、工藤洋崇、小橋れな、水越朋
ロロとか、はえぎわで気に入っているところは、語り口の爽やかさだと思います。ロマンチックのふりをして、少しおセンチ、結論があってもなくてもすんなり終わる。そのキレの良さが魅力だと思います。
一部では、ロロらしくないという評判らしい伊東沙保の缶コーヒーを積み上げながらの長セリフも、私には十分素敵でした。しかし、そのシーンのBGMが中島みゆきなのには少しびっくりしました。
テーマは、どなたかがTwitterに書いていた「逢いたいけれど逢えない誰かを想像する(と居る(みたいな気がする)」ということでしょう。
人と人の出逢いというテーマの周りをぐるぐるまわって、様々なアプローチをしているように見えます。そのアプローチが、どれも私にとっては好ましかったり、微笑ましかったりするのが魅力です。