2012年2月25日土曜日

MONO「少しはみ出したら殴られた」

2012年2月22日 19時30分開演 吉祥寺シアター
作・演出 土田英生
出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、土田英生、岡島秀昭、諏訪雅、中川晴樹
昔WOWOW舞台中継を見て、おもしろかった記憶があったので見た「チャレンジ観劇シリーズ」第四弾。
あっさりとした日常会話のなかで、知らず知らずのうちに進んでいく軋轢と差別。
ある日、突然二つの国に分裂した国の刑務所は、偶然にも国境線の真上にありました。
仲のよかった囚人たちも出身地で二つに分かれ、次第に仲が悪くなり、最後には大乱闘になります。
オチは、二つの国はEUのように周辺諸国を巻き込んで統合され、刑務所には、気まずい日常が戻ってきます。この芝居を見て、前の角角ストロガのフの芝居で、納得できなかったところがはっきりとわかりました。角角ストロガのフでは、現実を「事件」という形で再構成して、ゴロンと舞台に投げ出しただけに過ぎないのです。その先にあってほしい「評価」が全く見えてきません。
「評価」とは、「マインドコントロールは非人道的です。」などというありきたりな主張ではなく、「犯人の徹底的な悪の魅力」でもよかったと思います。それが見えてこず、全体の演技力不足で、クールに人を操る犯人と何となくそれに従ってしまう普通の人々という構図が見えていたに過ぎませんでした。
MONOでは、地味ですが確かな個々の演技力とアンサンブルで、苦くもささやかな希望を含んだ評価を見せてくれました。
次回公演も是非みたいです。

2012年2月20日月曜日

角角ストロガのフ「昆虫美学」

2012年2月20日 13時30分開演 王子小劇場
作・演出:角田ルミ
出演:青柳尊哉、村田唯、正木佐和、犬塚征男、関亜弓、椿かおり、塚田まい子、島崎裕気、綱川凜、仲田敬治

「チャレンジ観劇シリーズ」第三弾。この芝居を選んだのは、劇団名のおもしろさと、王子小劇場に一度行ってみたかったという簡単な理由でした。

安易な選択理由と裏腹に、芝居は実際にあった「一家監禁殺人事件」をもとに、マインドコントロールとそれによって自我が崩壊していく人々を描く重いものでした。始まりから一気に一家崩壊に導いていく作者の筆力は相当なものです。残念ながら、役者の力量が全体に不足気味で、マインドコントロールする方もされる方もいまいち、説得力がありません。特に、犯人の吉田がラスト近く長女にプロポーズするところは、唐突な感じが残りました。
それにしても、演出家の能力のなかには「洗脳」する力が含まれていることがよくわかりました。
きっと、優れた演出家は、セールスマンやネットワークビジネスでもよい成績を上げることでしょう。
この劇団の次回公演を見に行くかどうかは、作演出の興味がどこにあるのかわかってからにしたいと思います。

2012年2月12日日曜日

地点「トカトントンと」

2012年2月11日 15時開演 神奈川芸術劇場大スタジオ
構成・演出:三浦基
実は、この芝居は最初見る予定にしていませんでした。たまたま仕込中に覗いてみたら、とても変わった舞台装置だったので、これが芝居のなかでどう使われるのかを知るには、本番を客席で見るしかないと思い、慌ててチケットをとりました。
変わった舞台装置というのは、正面すべてが10センチ角の金属片で埋め尽くされていて、その金属片は上辺を死点としてぶら下げられていうだけで、後ろからの送風機の風でゆらゆら揺れるという「風を視覚化する」装置と、逆開帳の床の組み合わせというものでした。
逆開帳の傾斜はかなりの物で、客席から床は全く見えません。
ホリゾントと床の接するところも死角になっており、その隙間から役者が出入りするのも見えず、役者が立ち上がって初めてその存在がわかることになります。通常、黙認している登退場のタイムラグがゼロになるという不思議な感覚が味わえました。
「風を視覚化する」装置の方は、私には残念ながら成功していいるようには見えませんでした。送風機を回すと、金属片の動きは風というよりは波紋のようにしか見えませんでしたし、なによりも送風の音がうるさくて金属片の動きの変化より、音に気持ちが持って行かれます。録音した送風機の音を流して、金属片は動かないというバリエーションを作っていましたが、それもたいした効果を生んでいませんでした。
風を舞台効果として使うことは、前々から何度もいろいろな芝居で見てきましたが、すべてその音に邪魔されてうまくいったのを見たことがありません。
「風の視覚化」で私が思い出すのは、ずいぶん前の化粧品のコマーシャルで、画面一面の風車が左から右にさーっと回り出す場面です。もちろん、音はしません。あれほど鮮やかに、風の視覚化をとらえた例はほかにないと思います。
もちろん、映像だからできた技で、舞台では無理ですが。
さて、芝居の中身ですが、一言で言えば、「既存のテキストを解体・再構築して、新たな発声を与えることにより、新しいドラマを作り出す。」ということでしょうか?
実はこれは私が若い頃見た早稲田小劇場の「劇的なるものをめぐって」についていわれていたことですが、戦術は違えど、戦略的には同じものに思えました。
その成果がどれほどのものであったかは、私には正直わかりません。マイナスの地点から出発しなければならない悲しみや、まだ、何も成し遂げられていないという静かな絶望感は、ゆっくり心にしみていきます。
その気持ちを心に抱えたまま、観客は静かに劇場を後にします。
最後にどうでもいいことですが、ラストに出てきてほっとする雰囲気をかもしだした男の子は、演出の三浦さんのお子さんでしょうか?お顔がそっくりでした。

追記
後日知ったことですが、子役の子は演出家の甥御さんだそうです。

2012年2月11日土曜日

ぬいぐるみハンター「愛はタンパク質で育ってる」

2012年2月10日 19時30分開演 下北沢駅前劇場
作演出:池亀三太 
出演:神戸アキコ、浅利ねこ、石黒淳士、猪股和麿、武田有希子、浅見紘至、浅見臣樹、黒木絵美花、でく田ともみ、町田水城、松本大卒、満間昂平
私のなかで密かに始まった「チャレンジ観劇シリーズ」第二弾。
これは大きな劇場で芝居を見ても、今ひとつおもしろくない。みんな芝居もうまいし、よくできているけれど、なぜかわくわくどきどきしない。そんな思いから、とりあえずわくわくどきどきするために、今まで見たこともない劇団やユニットを見に行くギャンブルシリーズです。
ルールは、劇場でもらったチラシやWeb上の情報からおもしろそうな物を選び、必ず予約して見に行く。劇評や感想は、考慮しない。なぜなら、基本おもしろいと思った人が感想を書くので、参考にならないことが多いからです。
ちなみに、「チャレンジ観劇シリーズ」第一弾は、ハイバイでした。
さて、ぬいぐるみハンター。
三蔵法師や黄門様、イージーライダー、イソップ童話のウサギとカメ、童謡の犬のおまわりさんと迷子の子猫ちゃん、猿岩石などが、なぜか一本道をひたすら前に進む話と、不器用なカップルのラブシーンと交互に描かれます。。この部分は、コントを見ているようでおもしろいです。しかし、神様が現れるあたりからタイトルと併せて、だんだんと結末が透けて見えてくるようになり、2回目の神様登場で決定的になります。
すなわち、三蔵法師たちはすべて精子であり、ゴールは赤ちゃん誕生、受精なんです。結末に向かえば向かうほど、スピード感は減り、どこかで見たようなシーンや台詞が多くなり、おもしろさは減っていきます。作者もそれを気にしたのか、ラストに今までのシーンをフラッシュバックの連続で見せることで、スピード感を取り戻そうとしたようですが、残念ながらカタルシスを得ることには失敗しています。
ほかの結末はなかったのでしょうか?
前半の疾走感のまま、突き抜けてくれればもっとおもしろかったと思います。
振り返って見れば、コントのようなシーンの台詞も、結末に向かって慎重に配置されており、プロットに従ってちゃんと構成されていることがわかります。(ただし、「ぼろぼろになって立ち止まる女」のシーンは、変にシリアスなため、全体から浮いているように感じました。)
だから、別の結末などあり得ないことはわかるのですが、ラストがあまりにも陳腐なのがとても残念です。
役者では、女優陣がそれぞれ、とてもかわいかったです。特に、不器用なカップルのムクミを演じた神戸アキコが、八面六臂の大活躍でおもしろかったです。別の演出で芝居しているところを見てみたいです。
劇団としては、次回公演を見るかどうかは微妙なところです。

2012年2月6日月曜日

iCalへの不満

私は自分のスケジュール管理をプライベートも仕事も、すべてiCalでやっています。今までは特に不満もなく、年末年始に行った、MobilemeからGoogleカレンダーでの同期に移行後も快適に使っていました。
ところが、「今年は芝居を見る。しかも、金を払って」という年頭の誓いを実行するため、気になる芝居の公演スケジュールをiCalに入力し始めたところ、困ったことが起きました。日常的に私が使っているのは13inchのMacBookですが、これに画面いっぱいにiCalを表示しても、月間画面で一日4件以上のイベントは表示されないのです。オーバーフローしたイベントは、「 ... 」と小さく表示されるだけです。これでは簡単に見逃してしまいます。
私の観劇スケジュールの決め方は、
「きになる芝居の公演スケジュールをiCalに入力しておく。
仕事のスケジュールが決まったら、空いている日に見られる芝居を確認し、チケットの手配をする。」というものです。
このため、芝居のスケジュールが4本以上重なっていると、その日の仕事のスケジュールがオーバーフローしていて、芝居と仕事のダブルブッキングの危険性があるということです。
その可能性がある日には、週間画面なり、日間画面に切り替えて確認すればよいという話ですが、それもめんどくさい。ましてや、そのために広い画面のiMacを立ち上げるのは、もっとめんどくさいです。
要は、iPhoneのカレンダーのように月間画面の下に、その日のイベントがリストで表示されていればベストで、少なくとも、Googleカレンダーのようにオーバーフロー分は、「その他5件」とはっきり表示されればすみそうです。
そんなスケジュールAppがないかと、「Mac AppStore」も見てみましたがスケジュールアプリ自体の数が少ないし、欲しい機能のアプリは見つかりませんでした。
とりあえずは、観劇スケジュールの決定時には、慎重に確認するしかないみたいです。


2012年2月3日金曜日

下谷万年町物語


2012年2月2日 14時開演 シアターコクーン
作:唐十郎 演出:蜷川幸雄 出演:宮沢りえ、藤原竜也、西島隆弘 そのほか

突然思いついて見に行ったわりには、2階の前から2列目という見やすい席で見られました。
しかし、長い。休憩が2回あるとはいえ、3時間30分は長いです。立ち見席だったら、途中で帰っていたかもしれません。
やり過ぎと思えるほど、水に落ちながら熱演する藤原竜也の1幕。何度も墜落しそうになりながら、そのたびに高度を上げて持ち直す、スリルあふれる演技の宮沢りえの2幕。ワハハ本舗の梅垣義明を思わせる怪演の六平直政を狂言回しに、爆走する3幕。
なかでも全編を通して、きれいな台詞回しと情感あふれる感情表現で全体を落ち着かせた西島隆弘は、すてきでした。
脇では沢隆二が渋く、いぶし銀の演技で光りました。
しかし、私にとっての唐十郎戯曲の最高の語り部は、やはり、李麗仙であり根津甚八であり、不破万作、大久保鷹をはじめとする状況劇場なのです。
宮沢りえの台詞を聞きながら李麗仙ならなんというだろうとか、藤原竜也をみながら根津甚八ならどうだろうとか、妄想が止まりません。

私にとっての唐芝居は、上野の不忍池水上音楽堂で見た「ベンガルの虎」だったことを改めて自覚しました。若くもなく美人でもないのに平然とヒロインを務める李麗仙、自分の台詞のとちりに自分で吹き出してしまう芝居なんか全然できない根津甚八、一歩間違えば浮浪者にしか見えない不破万作や多く場鷹。多すぎる猥雑な物や余計な物を抱え込んだまま、物語は場面を飛び回り、ラストに向かって爆走する。これが私の唐芝居のイメージです。
やはり、宮沢りえではやらしさが足りない。きれいだし、崇高な感じも十分だが、猥雑さがない。

2012年2月1日水曜日

ハイバイ「ある女」

2012年1月31日 14時開演」駒場アゴラ
作演出:岩井秀人 出演:岩井秀人、小河原康二、猪股明、上田遙、平原テツ、坂口辰平、永井若葉、吉田亮
不倫をしている女性タカコの話です。タカコは、同棲していた恋人に振られたショックで会社を変わり、すぐに上司の森と不倫の関係になる。最初は不倫だとわからなかったが、わかった後もずるずると関係を続け、お金までもらうようになる。それでも相手を喜ばせようと、怪しげなセックス教室に通い、だまされて売春までさせられるようになる。
タカコは、他人とも関係にとても臆病です。自分のささやかな望みも、何度もつばを飲み込み、口ごもってからでないといえない。自分の希望が通らなくても、その場を立ち去る勇気もありません。
こんなタカコを、作演出でもある岩井秀人が、悲しく切なくおかしく演じて、すばらしい。ただ、周りの登場人物の話し方が、みんな同じように聞こえてしまうのが残念です。もう少し性格がはっきり出れば、もっと物語が膨らんだと思います。
隣の定食屋の娘を演じた上田遙は、とてもかわいかったです。舞台上で、女優がかわいく見えると、とても得した気分になります。
次回作も見に行こう。