2015年3月31日火曜日

MU「少年は銃を抱く」

2015年3月30日 19時30分開演 下北沢駅前劇場
作・演出:ハセガワアユム
出演:小沢道成、斉藤マッチュ、青木智哉、古屋敷悠、佐々木ふみな、古市海見子、小園茉奈、鳴海由莉、真島一歌、久保亜津子、森久憲生、岡山誠、山崎カズユキ、宮田智香、菅山望、大塚尚吾、ししどともこ、友松栄、佐野功、成川智也、小野塚老
偶然にも2本続いての学園物になりましたが、2本続いての外れともなりました。
「不登校生にお守りとして銃をくばり、配られた男女の心の変化を描く」というテーマがどうのこうのという前に、何しろ役者の演技が酷い。それは役者が悪いとというよりも、演出が悪いと思います。小劇場なのに、大劇場のように芝居させてどうするつもりなのかという問題だと思います。ある程度完成された役者が出演する大劇場なら、演出が役者の演技の質にまでだめ出しするすることが難しいことはわかりますが、より濃密な関係性が求められる小劇場で、しかも未熟な若い役者に好き勝手に芝居させてどうするつもりなのかという問題です。役者は真面目に芝居しているのでしょうが、小劇場ならではの空間を作るのは演出の仕事だと思います。この芝居はそれに見事に失敗しています。

アガリスクエンターテイメント「紅白旗合戦」

2015年3月25日 19時30分開演 新宿サンモールスタジオ
作・演出:富坂友
出演:塩原俊之、加藤隆浩、菊池奈央、ボス村松、斉藤コータ、川添美和、鹿島ゆきこ、熊谷有芳、沈ゆうこ、津和野諒、前田有里子、野澤太郎、浅越岳人
単純にタイトルに興味を引かれて見にいきました。
卒業式における「国旗掲揚」と「国歌斉唱」の取り扱いをネタにした芝居ですが、思想とか人権の問題を扱ったものではなく、あくまでもそれをネタにしたシチュエーションコメディです。それが証拠に、劇中で唯一、思想を表明する、ボス村松演ずる社会科教師はずいぶんとカリカチュアされていました。
こういったコメディと称する芝居を見るたびに思うのですが、コメディにはなによりも演出や役者にコメディのセンスが必要とだということです。間の取り方とか台詞の言い回しに独特のセンスが必要で、それができていないと観客は苦笑いしかできないという事態に陥ります。
この芝居ではラストのオチの付け方が無理すぎて、合意のための合意というか単なるツジマジあわせすぎて、笑うに笑えません。まるで途中打ち切りの連載漫画のラストのようでした。作者としては生徒自治原理主義者の生徒会長だけが賛成しないことで、バランスを取ったつもりかもしれませんが、全くそうなっていなくてやっつけ仕事とにしか見えませんでした。

2015年3月25日水曜日

鹿殺し「横浜アンダーグラウンド」

2015年3月24日 19時開演 横浜 yoshidamachi Lily
作・演出:劇団鹿殺し&丸尾丸一郎
1. 「濁乱水晶」作:鷺沼恵美子 出演:鷺沼恵美子、中島雄太
2. 「ヒッキーの手記」作:峰ゆとり 出演:浦上裕輔、木村綺那、今藤茶
3. 「RED FOOD FABLE」作:近藤茶 出演:清川果林、浅野康之、松尾珠花、峰ゆとり
4. 「206で」作:木村綺那 出演:妻鹿益己、安井直美、松尾珠花、中島雄太
5. 「魂のコリドー」 作:丸尾丸一郎 出演:美津乃あわ、傳田うに
いわゆる若手公演というやつで、若手が書いた4本の短編と、丸尾丸一郎の1本をまとめて上演するというカタチでした。短編どおしにつながりはなく完全に独立したカタチとなっています。
当日パンフレットによれば、「劇団創立当時のぎらぎらした感覚を若手に伝えたい」と考えて企画された公演のようです。
結論から言えば、若手の作品からは初めて脚本を書いたその稚拙さは脇に置いたとしても、「なにかぎらぎらしたもの」は感じられず、真面目に芝居するだけでは超えられない壁があることを感じさせました。やはり、鹿殺しには葉月チョビの野望が必要なのかもしれません。現在の鹿殺しは、葉月チョビの野望と劇団の実力が低いレベルで釣り合っている状態だと思います。劇団のレベルが急激に上がることは考えにくいので、チョビの野望がさらに膨らむこと以外に面白くなる道はないと思います。

ハツビロコウ「セルロイド」

2015年3月18日 19時30分開演 新宿スペース雑遊
作:鐘下辰男
演出:船岩祐太
出演:岩野未知、松本光生、内田健介、吉田裕貴
日本では珍しい「血」と「暴力」のにおいのする脚本家鐘下辰男と、他の小劇場とひと味違う演出家の船岩祐太の組み合わせと言うことで、役者についてはなんの知識もないまま見にいきました。
芝居は近親相姦と嬰児殺しを正面から扱った超シリアスなもので、ストイックに時には暴力的に進んでいきます。引きこもりの女とその父親と兄、なぜか町で拾ってきた若い男という関係の中で会話が進んでいく前半はまだよいのですが、後半になって全てが女の妄想であり、父と兄はもう死んでおり、町で拾ってきたと思っていた若い男は、自分で殺した赤ん坊であることがわかってくると、岩野未知の力量ではそれを支えきれず、どんどん尻つぼみになってしまいました。実に残念です。
これが旗揚げ公演だそうですが、もう一度見るかどうかは、次回の演目次第というところです。

2015年3月18日水曜日

地点「三人姉妹」

2015年3月17日 19時30分開演 神奈川芸術劇場中スタジオ
原作:アントン・チェーホフ
演出:三浦基
出演:石田大、伊東沙保、阿部聡子、窪田史恵、河野早紀、小河原康二、小林洋平、岸本昌也、田中祐気
一部では「地点語」と呼ばれているらしい独特のイントネーションで台詞を語ることを唯一の武器として、生身のからだひとつで演劇に立ち向かう現場を見た思いです。これを見ると他の芝居がいかに様々なものに守られていたのかきづかされます。どちらがより良いという問題ではありませんが、ひょっとしたらここに今の演劇の最前線があるのかもしれません。
見終わって最初に思ったのは、チベット仏教の五体投地という言葉でした。全身を投げ出して聖地に向かう過酷な修行ですが、同じことを芝居においてしているのではないかという思いがしました。
この修行の先に新しい演劇があるのか、それとも袋小路なのか、まだわかりませんが、注意深く見守っていきたいと思います。

2015年3月17日火曜日

CHAiroiPLIN「さくらんぼ」

2015年3月13日 19時30分開演 下北沢「劇」小劇場
原作:落語「さくらんぼ」
振付・構成・演出:スズキ拓朗
出演:NIWA、池田仁徳、加藤このみ、清水ゆり、ジョディ、千葉りか子、福島梓、増田ゆーこ、まひる、本山三火、スズキ拓朗
落語の「さくらんぼ」,一般的には「頭山」として知られるものをダンスにする試みですが、かなりうまくいっていたと思います。
「頭山」という話は、けちな男がもったいないからと、サクランボを種ごと食べたところ、頭から桜の木が生えてきて、皆がお花見をするものだからうるさくてかなわない。怒ってその桜を抜いてたところ、大きな穴ができてそこに雨水がたまり、皆が水浴びに来るので、やはりうるさい。世をはかなんで、その池に身を投げて死んでしまうという、荒唐無稽な話なんですが、その荒唐無稽さを人力のチープな仕掛けを駆使して、ダンスにしてしまう。ひとつ間違えば、目も当てられないしらけた舞台になりそうなところを、ユーモアと人徳で見事にカバーして、面白い舞台でした。
スズキ拓朗の演出は、狭い舞台でも大きな舞台でもそれなりに見せられる柔軟さが魅力のひとつだと思います。

サンプル「蒲団と達磨」

2015年3月12日 19時開演 神奈川芸術劇場大スタジオ
作:岩松了
演出:松井周
出演 : 古館寛治、安藤真理、辻美奈子、奥田洋平、野津あおい、古屋隆太、田中美希恵、松澤匠、三浦直之、新名基弘、大石将弘、松浦祐也
岩松了の岸田戯曲賞受賞作をサンプルの松井周が演出するというので、楽しみに見に行きましたが、結果は残念なものに終わりました。
松井周はある暗黙の了解の元に成り立っている集団がふとしたきっかけで崩壊していく、というような話が多いですが、今回のような普通の家庭の崩壊を演出するとっかかりを見つけられなかったのではないかと思います。
娘の結婚式が終わった夫婦の寝室、二人で静かに話そうとするのですが、なぜか様々な人がやってきて様々な話が膨らんでゆく。主役の古館寛治は、色々と立派そうなことを言っていても布団の下には山ほどエロ本を隠している、どうしようもない普通の男をうまく演じていたのですが、その妻役の安藤真理がどうもいけません。近くにアパートを借りて、一人の時間を持ちたいと思っている、夫に対してもうそんなに関心がないのだけれど、無視するほど冷たくもなれない、中年の女性という役をうまくこなせていないので、登場、退場のたびに前後のつながりが切れてしまい、話がよく見えなくなります。他の役は、ワンポイントリリーフだったり、その他大勢のガヤだったりするので、夫婦の関係性がはっきりしないと、今ひとつ面白くなりません。

カタルシツ「地下室の手記」

2015年3月2日 18時30分開演 赤坂レッドシアター
原作:ドストエフスキー
脚本・演出:前川知大
出演 : 安井順平
2013年の「地下室の手記」の再演です。今回は、娼婦役の女優もなしの完全一人芝居になり、より主人公のだめさ加減がはっきりと現れていました。ニコニコ生放送で自分の半生を振り返り、語っていく。それに対する突っ込みがスクリーンにだらだらと流れていく。きわめて現代的ともいえるし、妄想の極地とも考えられる。そんな1時間40分でした。

箱庭円舞曲「必要とされている、と思う病気」

2015年2月23日 18時30分開演 下北沢駅前劇場
作・演出:古川貴義
出演 : ザンヨウコ、前田有貴、白勢未生、岡田一博、清水大将、内田悠一、石松太一、大塚宜幸、家田三成、深澤千有紀、松本寛子
作者が本当に結核になって入院したことにインスパイアされて書かれた芝居で
した。とはいえ、結核の悲惨さを訴えようという芝居ではなく、社会から隔離されたことにより実感する「自分は誰からか必要とされているのか」という疑問や、「自分がいなくても世界は回っていく」という寂しさについての芝居です。
隔離病棟の患者が疑問を持つものと寂しさを感じるものにわかりやすく分けられていたのが、気にかかりました。

趣向「解体されてゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」

2015年2月26日 19時開演 三軒茶屋シアタートラム
作:オノマリコ
演出:稲葉賀恵
出演 : 清水葉月、藤井有里、稲継美保、深谷美歩、前東美菜子、朝比奈かず、増岡裕子、窪田優、上田桃子
KAATでの「奇跡の年」が面白かったので、見に行きました。相変わらずの言葉の美しさに加えて、力強さが加わっていて感動しました。
消えていったもの、やがて消えていくものに対する愛情がベースにあるのですが,それがすべて言葉として表現されているので朗読劇のような印象を持ちます。演出は,それを阻止するために役者を色々と動かすのですが、時としてうるさく感じました。




追記1
清水葉月は、蒼井優に似た雰囲気なのですが、それよりレベルが低いので、ぶすに見えます。蒼井優がぶすに見えないぎりぎり最低レベルだということがわかりました。
追記2
40年以上ぶりに、「インターナショナル」を聞きました。しかし、メロディラインや歌詞が私が覚えていたものとは、少し違いました。インターナショナル」には様々なバリエーションがあるそうなので、劇中で歌われたものは、戦前のバージョンなのかもしれません。

マームとジプシー「カタチノチガウ」

2015年2月19日 20時開演 原宿VACANT
作・演出:藤田貴大
出演 : 青柳いづみ、川崎ゆり子、吉田聡子
1年半ぶりのマームのとジプシーでした。本来なら、スケジュールの都合で1月のVACANT公演、2月の横浜公演ともいけない予定だったのですが、青柳いづみの体調不良により公演をキャンセルしたため、追加公演が決定して見ることができました。
今までのマームとジプシーと少しちがう印象を受けました。今までだと、ストーリーを役者によって少しずつ角度の違うリフレインによって語っていったのに対して、今回は、三人ということもあるのか、ほとんど青柳いずみ一人でストーリーを語り、残りの二人は自分たちの印象を述べるだけで終わっている感があります。そのためか、いつものならリフレインが物語に広がりを与えるのにくらべ
、今回は物語はそこに積み重なっていく印象が強く残りました。

岡崎藝術座「+51アビシオン、サンバルハ」

2015年2月18日 19時30分開演 横浜STスポット
作・演出・美術:神里雄大
出演 : 小野正彦、大村わたる、児玉麿利
岡崎藝術座は1年半ぶりの観劇になりました。かなり間が空いたので以前のことはほとんど忘れてしまっていますが、基本的な印象まで変わったような気がします。私の岡崎藝術座の印象は、「なんだかわからないものに触っている。もしくは、なんだかわからないものの周りをぐるぐる回っている。」というものでした。ここの芝居を見続けると、その「なんだかわからないもの」の正体が少しだけでも見えてくるのではないか。そんな期待を抱かせてくれるところが魅力でした。
しかし、今回は最初こそ、神里雄大の分身であろう演出家と、戦前の労働者演劇の演出家であり、ソビエトからメキシコに渡った佐野碩二人の時空を超えたやりとりがあるものの、後半に行けば行くほど神里のルーツ
であるペルーへの旅行記になっていき、そのまま終わってしまうという、なんとも尻つぼみな感じでした。そこには、「なんだかわからないもの」は、影さえ見えませんでした。
神里が私が言うところの「なんだかわからないもの」に対して、どれだけ自覚的なのかもわかりませんが、私にとっては、岡崎藝術座の魅力はほとんどなくなったに等しいです。

風琴工房「PENALTY KILLING」

2015年2月17日 19時30分開演 下北沢ザ・スズナリ
作・演出:詩森ろば
振付:加藤沙希
出演:粟野史浩、筒井俊作、大石憲、金丸慎太郎、久保雄司、酒巻誉洋、杉木隆幸、野田裕貴、三原一太、森下亮、朝倉洋介、岡本篤、金成均、後藤剛範。佐野功、五十嵐結也、岡本陽介、草刈奨悟
風琴工房の公演を見るのも3回目です。「PROOF/証明」、「わが友ヒットラー」とシリアスな芝居が続いていたのでそれが持ち味かと思っていましたが、今回はいい意味で裏切られました。アイスホッケーというマイナーなスポーツを題材に、加藤沙希のダイナミックな振付に助けられたとはいえ、実に面白い2時間を作り出した詩森ろばの力量はたいしたものです。
成功の最大の原因は、あの狭いスズナリにアイスホッケーリンクと観客席、総勢18名の役者を無理矢理押し込めたことです。狭い空間の押し込められた役者のエネルギーが、試合前の選手の雄叫びとなって爆発する。面白くないわけがありません。
もう一つの成功の要因は、選手が大人として描かれていることです。スポーツ選手は本来子供っぽいものだと思います。ましてや、プロになろうとする人は子供の頃からスポーツし
かやってきていないのですから、一般的な意味で常識ある大人になるのは難しいと思います。それをそのまま舞台にのせてしまうと、見る方としてはうんざりしてしまうのは火を見るより明らかです。しかし、ここでは、各選手が自分を客観視できる大人として描かれており、ラストの試合に絡めての15名にも及ぶモノローグも,見せ方の演出的な工夫と相まって、心を揺さぶるものになっていました。

鵺的「丘の上、ただひとつの家」

2015年2月16日 14時30分開演 SPACE雑遊
作・演出:高木登
出演:奥野亮子、高橋恭子、平山寛人、宍戸那恵、古屋敷悠、生見司織、井上幸太郎、安元遊香
なぜかスケジュールが合わなくて見られない劇団のひとつだった鵺的を見ました。当日パンフレットによると、結成してから6年ということですが、6年間何をやってきたのかという感じでした。近親相姦というタブーをキーワードに家族とは何かを考えることがテーマだと言うことですが、テーマ以前に全てが表面的な記号にしか見えません。真面目に生きようとする人々がよく言えば端正で押さえた演技で、人生を刹那的に生きる人がラフでカジュアルな物言いをする、その基本的な演出自体が表面的すぎてみていられません。
転換も暗転つなぎばかりで、決まり台詞を言う、そして暗転。その繰り返しで、すぐ飽きてしまいます。これではテーマ自体も単なる記号にしか見えません。
脚本も演出ももう少し突き詰めてほしいものです。