2019年7月28日日曜日

Newyork2019 Vol.26 Moulin Rouge! The Musical

2019年7月2日 20時開演 AL HIRSCHFELD THEATRE
今回のニューヨーク最後のミュージカルは、まだプレビュー中だった「Moulin Rouge! The Musical」でした。プレビュー中の作品については批評を発表しないというのがニューヨークの暗黙の了解だそうですが、もう正式オープンもしたし批評もぼちぼち出ているようなので、もう大丈夫でしょう。
見にいって一番びっくりしたのは、開場を待つお客さんの列の長さです。8th Ave.を1ブロック以上、人が並んでいました。この作品に対する期待の高さを伺わせます。
入場すると舞台前面に大きなMoulin Rougeのネオンサインがぶらさがり、上手のバルコニーには巨大な象、下手にはムーランルージュ名物の風車が鎮座まします。舞台上ではロートレックの絵のような衣装を着けた役者がそぞろ歩きながらポージングして、観客から写真を撮られています。世紀末のパリの雰囲気が濃厚で、今にもカンカン踊りが始まりそうです。しかし、いったん始まるとオープニングダンスは完全なディスコサウンド、振付もそれ風です。
ムーラン・ルージュのクラブのセットは、全面透かし模様のインドの宮殿風に過剰な電飾がつき、どこかテレビのセットを思わせます。その前で往年のヒット曲がアレンジし直されて次々と流れて、そのたびに客席には軽いショックが流れ、時には笑いが起きます。1幕は明るく楽しい雰囲気で終始しますが、2幕は一転してシリアスになり、セットも書き割りを多用したリアリズムに近いものになり、往年のヒット曲の再アレンジという手法も真面目に愛を歌い上げるというシリアス路線になります。とは言え、主人公たちのアトリエの窓の外には、「ア・ムール」というネオンサインが宙に浮かんでいたりしますが。
この作品の基になったのはガイ・リッチー監督の映画「ムーラン・ルージュ」で、ヒット曲の再アレンジという手法も映画から踏襲しています。これは「Remix」という最近の音楽界で重要な概念を応用したものと考えられますが、「Hadestown」や「Oklahoma!」といった「アメリカーナ」という現在のアメリカの音楽シーンの最重要概念を哲学的に考察して生まれた作品に比べると、底が浅い感じがします。とはいえ、様々な曲を元の曲のニュアンスを残しつつ、作品に合わせて(時には2つの曲をつぎはぎして!)アレンジした才能と労力はすごいものがあります。

2019年7月7日日曜日

地点「三人姉妹」再演

2019年7月5日 19時30分開演 神奈川芸術劇場中スタジオ
作:アントン・チェーホフ
翻訳:神西清 
演出:三浦基 
出演:安部聡子 石田大 伊東沙保 小河原康二 岸本昌也 窪田史恵 黒澤あすか 小林洋平 田中祐気
地点の「三人姉妹」再演を見ました。初演の時にものすごく感銘を受けた舞台でしたが、再演はそれにはるかに及ばないものでした。演出もずいぶん替わり、出演者も三女イリーナ役が黒澤あすかという若い役者に変わっていました。この人の発声だけが普通の対話のニュアンスを色濃く残しており、ずっといわかんがを感じさせられました。そのせいか、地点特有の「言葉が塊となって客席に飛んでくる」という感じがほとんどなくなっていました。
今まで地点を見てきてわかった事は、「役者の動きは激しいが、その意味がわからないときは、おもしろくない」ということです。これは、比較的広いKAATで上演される時に限って言えることかもしれませんが、空間を埋めようと役者に動きをつけるのですが、台詞がうまくいってないときにはその動きだけが激しくなり、結果、焦点がぼけ、芝居はいっこうに面白くならないということになるような気がします。