2015年12月28日月曜日

高校演劇サミット2015 都立六本木高校「墓場、女子高生」都立東高校「走れダメロス」

2015年12月28日 都立六本木高校「墓場、女子高生」14時開演 都立東高校「走れダメロス」15時30分開演 こまばアゴラ劇場
ベッド&メイキングスがやって面白かった「墓場、女子高生」を、現役の女子高生が演じるとどうなるのかという興味で見にいきました。高校演劇大会のルールで行われるため、上演時間は1時間以内という制限があるのですが、面白い戯曲は、半分以下に潤色しても面白いということを実感しました。
何より面白かったのは、制服の着こなしや,立ち振る舞いから「現実の女子高生は,そんなにきれいなものではない」と、無自覚でしょうが、主張しているように感じられる場面が見られたことでした。誰も意図したことではないと思いますが、私にはそこが一番面白かったです。
もう一本の都立東高校「走れダメロス」は、前半は謎のおばあちゃん軍団が走り回り、コンビニでうまい棒を強奪したり、桃色クローバーZ風に唄ったり踊ったりしているうちは楽しかったのですが、後半、セーラー服になって、「私たちが反対の声を上げなかったから、孫が遠くの土地に送られてしまうようになったのか!」と言い出すともう行けません。
今年の安保法案の成立やSEALSの活動の影響から出てきた主張でしょうが、どのような主張も演劇的に成立しなければ、イタイ主張に過ぎないということが未だに理解でいていないのは残念です。高校演劇らしいといえば高校演劇らしいのかのしれませんが、高校演劇の1つの大きな壁を見たように思います。

2015年12月22日火曜日

こふく劇場「ただいま」

2015年12月22日 14時開演 こまばアゴラ劇場
作・演出:永山智行
出演:濱砂崇浩、大浦愛、大迫紗佑里、あべゆう、かみもと千春
宮崎県の地域劇団で、前から名前だけは知っていましたが見るチャンスに恵まれず、今年の年末にやっと見ることができました。
作・演出の永山智行や出演者達についてなんの予備知識もないままに見ましたが、良い意味で「みのほどをわきまえている」ところが素敵でした。
細かいところに違いはありますが、白の長袖シャツに丈が短めの黒ズボン、足は白足袋、手には扇子代わりなのか様々な小渡具として使われる小さな木の枝、転換の移動は能のように腰を少し落としてすり足で歩く。統一された様式が,各々の役者の個性を際立たせるに役立ち、話にテンポを与えていました。
脱サラして豆腐屋を始めた男はなぜか妻に逃げられ、ニーナさんという女性と幻想の中で会話することを励みに豆腐を作り続けている。ある日、義理の妹に店の客とのお見合いを勧め、その話に触発された義理の妹の合唱団仲間の女性は,以前お見合いした男性と結婚する。結構、複雑な日常が淡々と繰り広げられていくのだが、すんなりと話の流れに乗れて、終わった後、なぜかじんわり、目に涙が浮かぶ。
素直に面白い芝居だったと言える作品でした。ただ、途中で幻想の中で戦争の体験が語られるのですが、そこへのつながり方が少々唐突で、違和感があったことが残念です。

2015年12月21日月曜日

文学座アトリエの会「白鯨」

2015年12月21日 14時開演 信濃町文学座アトリエ
原作:ハーマン・メルヴィル
作:セバスチャン・アーメスト
訳:小田島恒志
演出:高橋正徳
出演:小林勝也、中村彰男、沢田冬樹、櫻井章喜、石橋徹郎、川辺邦弘、上川路啓志、藤側宏大、采澤靖起、鈴木亜希子
英語で書かれた悲劇ベストスリーの1つ、「白鯨」の舞台化ということで見にいきました。
時々、意欲的な作品を上演する文学座アトリエの会と言うこともあり、結構期待して見にいったのですが、今回は残念ながらはずれの会でした。
イスや板きれ、ロープや布などを役者が自ら迂遠介しながらストーリーを進めていくという演出は、それ自体葉好感の持てるものでしたが、翻訳調の固い台詞やそれが身についていない言い回しに,違和感をぬぐえませんでした。ラストで、これが白鯨の悲劇を伝える旅回りの一座による芝居であることが明かされるのですが、だからといって,納得できるものでもありませんでした。

2015年12月10日木曜日

海のサーカス×スーパーエキセントリックシアター「杏仁豆腐のココロ」

2015年12月10日 18時30分開演 下北沢ザ・スズナリ
作・演出:鄭義信
出演:佳梯かこ、久ヶ沢徹
役者については何も知らないまま、鄭義信の作・演出ということで見にいきました。後で調べてみると、佳梯かこは北村想のプロジェクトナビの女優さんで、この芝居は10年以上前に佳梯かこが鄭義信に書き下ろしてもらったものでした。
クリスマスイブの夜、もう離婚届も出して別れて暮らすための荷造りもほとんど終わった茶の間で,男と女が話している。女はづぼらで家のことはほとんどしない。でも、弁当屋のパートで男を養っている。男はずっと無職でいわゆるヒモだが、家事はまめにする、主夫である。話していくうちにお互いに大事なことを言えていないことに気づき、それがもとで別れることになったのを知る。ほろ苦く、悲しい後を引くストーリーでした。
若いころの佳梯かこは知らないけれど、今でも十分魅力的な女優です。
どこかで舞台にでることがあれば、見にいきたいです。

ほりぶん「得て」

2015年12月10日 15時開演 ムーブ町屋4F ハイビジョンルーム
作・演出:鎌田順也
出演:墨井鯨子、上田遥、木乃江祐希、川上友里
気になる女優の一人である上田遥が出演するので、作・演出が苦手な鎌田順也なので迷いましたが見にいくことにしました。
ちなみに鎌田順也が苦手な理由は、ぐちゃぐちゃしたストーリーの果てに宇宙人や怪獣が暴れ回って話が終わるという展開があまりに多いことと、役者の演技にあまり興味がないようにみえるところです。
上田遥は、ハイバイの「霊感少女、ヒドミちゃん」の主人公と「ある女」のとなりの部屋の娘の役をやっているのしか見たことがありませんでしたが、妙にハスキーな声で喋る不思議ちゃん系のキャラクターで興味を持ちました。
しかし、上田の今回の役柄は割としっかり系のお姉さん的なもので、そうなると声も少しキンキンしているような気もするし、単なる背の低いおばさんにしか見えず、少々残念でした。
物語は、バイト仲間で行った旅行先で亡くなった川上の1周忌に旅行前に撮ったビデオレター持って同じチェーン店のバイトが訪ねてきて,そのビデオレターを見たところ、亡くなった川上が現実に現れたり、生きままあの世に行ってしまったり、大変な目に遭うというものですが、そのテレビに移った川上友里の顔芸が実に面白い。泣き、喚き、怒り、笑う。その顔のアップが大型テレビ画面いっぱいに映し出されて、滅多に見らレないものを見たという感じがしました。多分、舞台裏で一人でカメラに向かって演じていたのだと思うのですが、目の前に観客がおらず、反応もわからないまま演ずる不安までも移っているようでした。

2015年12月2日水曜日

龍昇企画「平成駅前旅館」

2015年12月2日 14時30分開演 中野スタジオあくとれ
作:前川麻子
演出:塩野谷正幸
出演:龍昇、吉田重幸、冨澤力、藍原直樹、浅野千鶴、畑山佳美、前川麻子、ひらたよーこ、根本和史、桜井昭子、関根麻帆、中村榮美子、よこやまよしひろ、塩野谷正幸
Twitterで浅野千鶴が出演していることを知り、慌てて見にいきました。
浅野千鶴は、味わい堂々や池田鉄洋の表現さわやかの公演に出ているのを見て,前から気に入っていた女優でした。
狭いスタジオあくとれにベテラン、中堅、若手が11人入り乱れての公演でしたが、ベテラン俳優の良いところと悪いところが両方表れた芝居だったように思います。
良いところは、経験豊富なだけに各自が自分のテンポを持っていて、なおかつ相手のテンポにも合わせられて、無理のない気持ちよいテンポを作り出すことができる点が、第一にあげられます。悪い点は、よいところの裏返しにもなるのですが、何でも自分の領域に引きずり込んで処理しがちなところで,これが多すぎると舞台にみずみずしさがなくなってきます。
お目当ての浅野千鶴は、ベテランに遠慮しているのは、比較的サラリと芝居をしていましたが、あまり似ていないビートたけしの物真似が面白かったです。

2015年12月1日火曜日

湯ぶね「愛の水中花」

2015年12月1日 19時30分開演 池袋スタジオ空洞
企画・原案:和田瑠子
作・演出:松本哲也
出演:和田瑠子、久保貫太郎、森谷ふみ、川瀬絵梨、井内ミワク、加瀬澤拓未、森田祐吏
全く知らない女優さんの自主公演でしたが、チラシの推薦文を読むとかなりの天然系のようだったので見にいきました。
物語は、本人の実話を元にしているようで、自閉症の姉とその家族の気持ちの移り変わりを地道に描いたもので、どこといって変なところもないが,面白いかといえば、面白いとは言えない、よくある中途半端な話でしかありませんでした。和田瑠子本人は、ぽっちゃり系のよく言えば癒やし系の女優で、本人にあった役をやればそこそこ面白いかもと思いましたが、きっと根が真面目なんでしょうね、自分の話をしてしまう。小説家は処女作に自分の話を書いて,たいていそれが一番面白い。とよく言われますが、役者にはそれは当てはまらないと思います。

2015年11月27日金曜日

篠田千明「悲劇」

2015年11月27日 19時30分開演 吉祥寺シアター
作:斎藤恵太
補綴:岸井大輔
演出:篠田千明
舞台美術:佐々木文美
映像:いしいこうた
音響:星野大輔
照明:上田剛
振付・ステージング:中林舞
出演:竹田靖、辻村優子、福留麻理、AoKid、安藤尚之、石橋里美、狗丸トモヒロ、榎本純子、大寺亜矢子、小野彩加、貝塚伊吹、勝田智子、小出実樹、斎藤友映、佐久間麻由、佐藤英美、紫藤祐弥、寿里、杉林建生、葉丸あすか、前川遥子、森田有貴、邸木有佳、山田麻子、吉次匠生
元快快の中心メンバーで、現在はタイバンコックに住んでいるらしい篠田千明の公演でした。「悲劇」とは、「悲しい劇」ではなく「劇に非ず」という意味のようです。
チラシ裏のスタッフの言葉を読むと、各スタッフのアイデアを篠田千明がまとめ上げた作品ということのようです。いわゆる「集団創作」のリーダーが篠田千明ということでしょうか。
そうしてできあがった作品は、どこをどうとっても演劇でした。「悲劇ー劇に非ず」を演劇を超える新しい創造を目指している勝手に考えた私の思い違いでした。
残念ながら、演劇としてのできも必ずしも「よい」とは言えないものでした。

2015年11月26日木曜日

東葛スポーツ「ウラGBB」

2015年11月26日 20時開演 神保町SOBO
構成・演出:金山寿甲
出演:佐々木幸子、橋本和加子、西山真来、折笠慎也
チェルフィッチュ「God Bless Baseball」のドラマトゥルクを務めた金山寿甲がそれに触発されて、突然発表されたようにみえる公演でした。
しかし、今まで見た東葛スポーツの中では一番ストーリーがある公演でした。
新築マンションの見学に来た二組のカップルと案内の不動産屋の女性、なぜか壁面にはヤクルトの優勝を決める試合の映像が流れる。それにかぶさる異様にうまい佐々木幸子のラップ。中身は、まいどおなじみ、モッシュと呼ばれているらしい東葛スポーツのパターンでした。演出の思いつきででっち上げられたとしか思えない小道具の数々は、「手作り」という言葉から想像できるあたたかさがみじんもない寄せ集めのガラクタのようです。(褒めているつもりです)
確かに、ほかの誰もがやっていない新しいことをやっているけれど、その新しさが切り開く新しい地平は未だみえてこないというところでしょうか。
新しい地平が切り開けるかどうか、今しばらく見ていきたいと思います。

2015年11月25日水曜日

地点×空間現代「ミステリア・ブッフ」

2015年11月25日 19時30分開演 にしすがも創造舎
作:ウラジミール・マヤコフスキー
演出:三浦基
音楽:空間現代
出演:阿部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、河野早紀、小林洋平
演奏:野口順哉、古谷野慶輔、山田英晶
地点の芝居は大ホームランになるか,空振りになるか予測がつかないので、全て見にいく以外方法がありません。過去ホームランだったのは、「河童」、「光のない」、「三人姉妹」の三本だけでした。今回の公演も大いなる空振りでした。まず第一に、空間現代の音楽が下手くそなプログッレシブロックのようで、面白くありませんでした。また、地点の演技の特徴のひとつである会話もモノローグのように喋る事も徹底されていなくて、妙に浮ついた感じが全体に漂っていました。しかし、役者達はいつもと違って少し嬉しそうで、会話が会話として演じられることや、自分の台詞きっかけでバンド演奏が始まることが嬉しかったのかもしれません。
その印象はカーテンコールでも続いていて、演出の三浦基をはじめとした全員の「やりきった感」には、違和感を覚えました。
ロシア革命時の芸術家、マヤコフスキー、メイエルフォルドなどには、独特な魅力があるように感じます。演劇の新しい形を作ったという歴史的価値だけではなく、革命初期の高揚そのままに自分の才能を力一杯開花させたというところが主な原因だと思います。

2015年11月24日火曜日

チェルフィッチュ「God Bless Baseball」

2015年11月24日 19時30分開演 池袋あうるすぽっと
作・演出:岡田利規
翻訳:イ・ホンイ
出演:イ・ユンジュ、捩子びじん、ウィ・ホンヒ、野津あおい
岡田利規の造る芝居の登場人物は、いつもキレイに抽象化されている。全く、生活感が感じられない。今回も同様で,その上韓国人俳優が日本人を演じ、日本人俳優が韓国人を演じるという仕掛けを施し、劇中でわざわざそれを説明するという手間までかけている。
そこまで抽象化した登場人物達が日韓の野球のエピソードを語り、最後には舞台正面奥に吊られた花のようなトランペットスピーカーの表面が水で剥がれ落ち、木地がむき出しになる。それがアメリカだということなのだろけれど、それじゃ、何も言っていないのとおんなじです。
前にも書いたが、岡田利規の芝居は現実の切り方が問題で、その切り方に共感できれば面白いが、できなければ何もない。今回は、残念ながら何もない方でした。
ただ、字幕の問題はうまく解決されていて、舞台上下のスコアボード風のセットに,韓国語と英語の翻訳が投影される。これだと視線の移動が少なくて済むので、集中が途切れることもあまりありませんでした。
字幕が必要なとは、それを前提とした装置や演出が必要だということです。

2015年11月22日日曜日

贅沢貧乏「みんなよるがこわい」

2015年11月22日 10時30分開演 三鷹駅北口三鷹共同ビル2階
作・演出:山田由梨
出演:青山祥子、大竹このみ、田島ゆみか、山田由梨
贅沢貧乏という劇団名が面白い事と、「家プロジェクト」という尖った活動をしていたということで見にいきました。
「家プロジェクト」というのは、一般的な小劇場を借りての公演では、時間が限られていて作品を成熟させることができないとして、一軒家を借りてそこで稽古をしてロングランの公演を行い、作品を完成形に近づけるとの考えに基づき、2014年の1年間に3本の作品上演を行ったのというものです。
この三鷹での公演は、「家プロジェクト」以後、初めての外部での公演となるようでした。
貸し劇場のスケジュールに制約を受けたくないという気持ちはわからなくはありませんが、それは制作側の気持ちであり、見る側には関係ないことです。「家プロジェクト」の作品を見ていないので今回の公演と比べることはできませんが、この作品を見る限り、際だって変わっているところもなく、若い女性クリエーターの気持ちを可愛く表していました。強いていえば会場選びにその特徴が出ていて、普通のビルの1室が女性のアパートにしつらえてあって、外からの扉を開けてアパートに帰ってくるという演出から始まるというあたりでしょうか。
物語は、フリーターの女性が部屋に帰ってくるところから始まります。帰ってすぐ寝てしまうと、女性の心の3つの性格がベッド下から現れてしゃべり出します。主な性格は、人見知りで臆病で心配ばかりしている。もう一つは,向こう見ずで思ったことを後先考えずに実行してしまう。最後の1つは、前の2つの性格を受け入れてある種悟っているような感じでしょうか。
その3つの性格の会話から、過去の後悔、将来の不安などが語られていきます。
よくあるといえばよくある設定ですが、どこかかわいらしいところが救いです。
頭でっかちな美大生という感じはぬぐえませんが、機会があればまた見たいと思います。

パリ市立劇場「犀」

2015年11月22日 15時開演 さいたま芸術劇場大ホール
作:イヨネスコ
ベケットと並ぶ不条理劇の2大巨頭であるイヨネスコの作品ということで、わざわざ与野本町まで見にいきました。不条理劇というと、ベケットと別役実のせいでほとんど何もない舞台の上でぼそぼそ喋るというイメージしかなかったのですが、「犀」は違いました。格調高いのであろうフランス語で、2時間以上しゃべり続けられて、それを聞いているだけでとても疲れました。装置も大がかりで、2階屋の引き枠を駆使して事務所やアパートをあらわすなど凝った演出を見せてくれました。特に、事務所のシーンで上下の引き枠の2階の床を傾斜させる演出などは、どう考えても意味がないとしか思えず、笑ってしまうほどでした。
不条理というよりは全体主義へのプロテストという方に演出の重きが置かれていて、それに即したアンサンブルの動かし方などはあざやかなものがありました。
演技では、主人公の親友ジャンが犀になっていくところの芝居は、うめき声と体の動きだけで犀になっていく過程を見せきり、言葉の壁を越えることに成功していました。
今回は事前に戯曲を読み、粗筋を頭に入れてから見たのですが、やはりどうしても字幕が気になりついついそちらを見てしまって芝居に集中できませんでした。外国からの招聘作品を見るにあたって、字幕の存在は難しい問題です。

2015年11月17日火曜日

ロロ「いつだって窓際であたしたち」

2015年11月17日 19時30分 横浜STスポット
策・演出:三浦直之
出演:亀島一徳、森本華、大場みなみ、島田桃子、多賀麻美、新名基浩
高校演劇大会のフォーマット、1)上演時間60分以内、仕込時間10分以内 2)消え物、危険物の使用禁止 3)照明、音響などの操作は,現役高校生もしくは顧問に限るに準じた,ロロの新しいシリーズの第1作でした。
ある高校の昼休み、モテナイ君が窓際の自分の席でいつものシューマイ弁当を食べようとすると、知らない女子が座っている。もちろん、話しかけられないモテナイ君。というところから始まるストーリーですが、1時間という時間はあまりにも短く、イントロから始まって、Aメロ、Bメロといってサビに行く前に終わってしまう感じで,物足りません。
高校生活を「実在するファンタジー」といいきって作劇する三浦直之のナイーブさは大好きですが、それを満喫するには1時間は短すぎました。

2015年11月16日月曜日

カムカムミニキーナ「>ダイナリィ」

2015年11月16日 19時開演 座・高円寺
作・演出:松村武
出演:山崎樹範、清水宏、夕輝壽太、莉奈、田端玲実、未来、松村武、藤田記子、亀岡孝洋、米田弥央、長谷部洋子、吉田晋一、田原靖子、佐藤恭子、元尾裕介、藍山彩、正木航平、芹井祐文、本間茂樹、福久聡吾、菊川耕太郎、渡邊礼、大倉杏菜、芦原桐子、柳瀬芽美
劇団を旗揚げして25年だそうですが、私がカムカムミニキーナを見るのはこれが最初です。作・演出の村松武は他劇団への客演で何度か見ていますし、今回は出ていない八島智人はテレビでおなじみです。
村松武は日本の民話、神話に造詣が深いらしく、狐憑きを基にした新興宗教の存亡とそれにまつわる様々な人々の欲望を、時空や虚実にかかわりなくぶちこんでくるという混沌とスピード感にあふれる芝居に仕上げていました。その仕上がりは、面白いといえば面白い、結構好き嫌いの分かれるものでした。私にとっては、「面白いものではあるが所々に見える真面目さが気になる。もっと、ぶち切れてもよいのではないか。」というところでしょうか。もっとも下手にぶち切れると,げんこつ団のようになってしまうのかもしれません。
元々この芝居を見る気になったのは、清水宏が出演するからでした。彼の役柄は、記憶喪失の依頼者の僅かな手がかりを基にストーリーをでっち上げ、事件の解決を目指す演劇探偵を副業とする劇団「演劇革命」の主宰者にして,作・演出家というもので、その無理矢理な設定を具現化するのには、彼の熱量と勢いだけで舞台を成立させるキャラクターはぴったりです。というか、彼のためにあてがきされたとしか思えません。
しかし、いつもと少し様子が違いました。スタンドアップコメディの時は、彼の熱量と勢いは直接観客にぶつけられ、その反応を確かめながら話を進めていくので、客の反応が鈍いときには手を変え品を変え、時にはしつこく同じ話を繰り返したりして、舞台が進んでいきます。これが芝居となると、彼の熱量と勢いは周りの役者にょって,一も二もなく承認されてしまいます。そうしなければ、話が前に進んでいかないので当たり前です。その手応えのなさに、清水宏は少し寂しそうというか、物足りなさを感じているように見えました。
なにしろ、国家表現規制局や警察の弾圧に対し、対抗策を次々にでっち上げて仲間とともに実行するという狂言回し的な役柄なので、いつものようにサイドストーリーで他の役者とはひと味違う違和感を漂わせて、キラリと光ってみせるというわけにはいかなかったようです。

2015年11月5日木曜日

ARICA「Ne ANTA」

2015年11月5日 19時30分 三軒茶屋シアタートラム
原作:サミュエル・ベケット
演出:藤田康城
出演:安藤朋子、山崎広太
もと転形劇場の女優安藤朋子とダンサー山崎広太による公演でした。演劇というよりは、演劇とダンスを包括するようなパフォーマンスアートといえると思います。
中年の男がベッドに座っている。窓の外を覗き、冷蔵庫の中を覗き、いつの間にか開いている扉を閉める。それを何度も繰り返す。そのたびにどこからともなく女の声がある女性の思い出を語る。やがて物陰から女が現れ、男の後をつけ回すようになる。最後にまるで男の心の中に入ってくるように、その女が扉から侵入してきたところで終わる。
山崎広太の動きは,ある時点でギアが変わったように変化します。まるで重力を感じていないように動き回り、びっくりしました。
それにしても、私はこのようなパフォーマンスを語る言葉を持っていないことを痛感しました。なにか抽象的な概念を具現化しようとしているらしいということはわかるのですが、それが何かということが言葉にできません。

げんこつ団「ボリショイ・ライフ」

2015年11月4日 19時開演 下北沢駅前劇場
脚本・映像・音響:一十口裏
演出:一十口裏、植木早苗
振付:植木早苗
出演:植木早苗、春原久子、河野美菜、大場靖子、池田玲子、望月文、川端さくら、久保田琴乃、山口奈緒、杉森多恵子、三明真美、鷹羽彩花
また1つひどい芝居を見てしまいました。げんこつ団という劇団名の面白さだけに惹かれて見にいきましたが、かなりのひどさでした。
台詞は棒読み、動きは右手と右足が一緒に動くようなぎこちなさ。ストーリーと関係なく中・高生が思いつくようなギャグが挿入されて、しかも炸裂せず少しも笑えない。
約2時間、全く面白くなく修行のような芝居でした。
帰宅してから調べたところ、1991年に結成され20年以上にわたって活動している劇団で、どうもあのひどい芝居はネライどうりらしいのです。公式ホームページのブログなどを読んでいくと、操り人形芝居のような表現を目指しているらしく、役者の個性よりは役を明確に役として表現していくことを重視しているようで、その結果があの芝居のようです。しかし、見て面白くなければ見にいく価値もないわけで、客が少なかったのもうなずけます。
鳥公園や快快など女性演出家の芝居が理解や共感できないことが気になっていましたが、ここにきて全く違うタイプの理解不能な女性演出家が現れたました。
鳥公園や快快はふわふわしてつかみどころがわからないという印象ですが、げんこつ団は堅すぎて歯が立たないという感じです。
頭でっかちな学生劇団のまま、20年以上芝居をやってきた希有な例かもしれません。

CHAiroi PLIN「三文オペラ」

2015年10月27日 15時開演 三鷹市芸術文化センター星のホール
作:ベルトルト・ブレヒト
演出・振付・構成:スズキ拓朗
出演:宮崎吐夢、ジョディ、エリザベス・マリー、スズキ拓朗、NIWA、田中美甫、今井夢子、増田ゆーこ、本山三火、池田仁徳、鳥越勇作、荒巻大道、新部聖子、岩坪成美、安部萌、伊藤直美、岩見和典、大橋昌広、肥沼勇人、志々目遙菜、清水美沙都、下西春奈、芹川直子、東ゆうこ、福井花、松隅加奈子、中井沙織、荒木亜矢子、渡部彩萌、小林らら、土屋杏文、三木万侑加、大塚由祈子、鷹野梨惠子、柏木俊彦、清水ゆり
「踊る戯曲シリーズ」も、「Friends」、「マッチ売りの少女」ときて3本目、当日パンフレットによれば「集大成」だそうですが、私の目には集大成失敗に見えました。
戯曲を踊るということは戯曲の解体に他ならないと思うのですが、前作2本は、「見知らぬ他人が家庭に侵入してくる」という抽象性の高いテーマであり、その抽象性が戯曲の解体とダンスによる再構築とうまくフィットしていたのですが、「三文オペラ」ではそうはいきません。
三文オペラは風刺劇であり、悪党大活躍の活劇の要素も強いからです。ストーリーは具体的で,それを面白くしていくためにはスピードと迫力が必要です。今回はそれを多数の役者を登場させることで乗り切ろうとしたようですが、成功はしていません。ザワザワした印象だけが残り、いつものステージングの見事さによる爽快感もありません。多分、オーディションで選んだメンバーといつもの役者陣との差が原因だと思います。


てがみ座「地を渡る舟」

2015年10月26日 19時開演 池袋東京芸術劇場シアターイースト
作:長田育恵
演出:扇田拓也
出演:清水伸、俵木藤汰、三津谷亮、伊東潤、川面千晶、近藤フク、福田温子、松本紀保、西山水木、今泉舞、箱田曉史、岸野健太、中村シュン、横山莉枝子、酒井和哉、峯崎亮介、谷恭輔、須田彩花
KUNIO12の「TATAMI」の時にも思ったことですが、よい台本とよい役者がいれば演出の仕事は新たな演出プランを追加することよりは、役者間の交通整理をしつつ、台本の意図を役者に伝えていくことに徹したほうが、よい芝居になりやすいということです。
演出家によって付け加えられたであろう、場面転換時の維新派のような群衆の往来や、ほっかむりをして半纏やどてらを着た名もなき民衆を表すような姿をした役者による転換、老農民と宮本常一の尾根道での会話を表しているのであろう、高さの違う丸イスを前に順繰りに送りながらそれを伝っていきながら会話するシーン、極めつけはラストの戦後すぐの群衆の往来が、段々現代の服装をした人々にすり替わっていくシーンなどが、芝居の内容を関係ないといいませんが,違和感を感じざるを得ない不要なシーンでしかありません。
芝居の内容は、渋沢敬三と宮本常一を中心に戦前から戦中にかけて戦争への熱狂とはうらはらな、地に足をつけて民俗学を通じて日本の原点を探す活動を描いたもので、昔の俳優座が好きそうな題材です。確かに,古き良き「新劇」を見ているような感じがして、演出としてはそれがイヤで様々な演出を考えたのであろうと推察できます。
しかし、台本がよくできているだけに小手先のプランを追加したくらいでは太刀打ちできなかったようです。
演出の扇田拓也は、オノマリコの「奇跡の年」で言葉の美しさを生かした端正な演出が記憶に残っていますが、ある種抽象的なオノマ台本と違い、あくまでも具体的で史実に基づいたこの芝居では、うまくフィットしなかったようです。

2015年10月26日月曜日

電動夏子安置システム「この中から3つ」

2015年10月21日 19時30分開演 下北沢ステージカフェ下北沢亭
脚本・構成・演出:竹田鉄士
出演:小原雄平、道井良樹、岩田裕耳、横島裕、新野アコヤ、片桐俊次、武川優子、渡辺美弥子
結成15年になる劇団ですが、変わった名前でチラシを見た記憶はあるのですが、それ以外は全く予備知識なしで見にいきました。
当日パンフによると、結成当初脚本の書き方も知らなかった主催者は、辞書から3つの言葉を適当に拾い出して、それを基に物語を作るということをしていたそうです。その無理矢理なストーリーを可能にするための設定や世界観を後付けすることで、変な喜劇ができあがることになったそうです。いってみれば、落語の三題話の演劇版でしょうか。
15周年にあたり、初心に戻って3つの言葉を選んでもらい、それを基に13編のショートストーリーができあがりました。
できあがった物を見てみると、確かに奇妙な設定やゆがんだ世界観を感じるのですが、だからといって面白いかといえば,そうでもない。小器用にまとめるある種の才能はあるとしても、だからといって全て面白くなるものでもない。という、ごく当たり前の結論にいなってしまいます。
役者では、「ある女」シリーズ3本で一人芝居を演じた渡辺美弥子が、見ている者の気をそらさない巧みな話術で面白かったのですが、ワンパターンなので3本も見せられると飽きてきます。

2015年10月20日火曜日

ペテカン「この素晴らしき世界」

2015年10月7日 19時開演 池袋あうるすぽっと
作・演出:本田誠人
出演:濱田龍司、齊田吾朗、四條久美子、羽柴真希、長峰みのり、添野豪、本田誠人、谷部聖子、小林健一、帯金ゆかり、長野真歩、市川喬之、柳家喬太郎、田中真弓、大治幸雄、桑原裕子
結成20周年になる劇団だそうですが、全く知りませんでした。ただ、桑原裕子がでているということで見にいきました。
桑原裕子は奮闘していて面白かったのですが、芝居としては面白くありませんでした。劇団のモットーは、「映画のような芝居を」ということで、これは難しいことはいわないで映画のように喜楽に見に行ける芝居をやりたいということだそうです。
難しいことは言わなくていいから、もっと、もっと面白くしてくれ。この芝居の料金は4000円です。普通の映画は1800円ですから、少なくとも2倍は面白くないと困ります。
だいたい、ラストにうまくもない楽器演奏で、「この素晴らしき世界」を演奏して、大団円と思うような感性は信じられません。
この芝居の収穫は、噺家の柳家喬太郎です。どのような経緯で出演することになったのかはわかりませんが、ひとつの芸を身につけた人の舞台上での存在感は、素晴らしいものがあります。周りがどうであれ、その存在感は揺るがない。古典芸能を身につけた人によく見られるリアリティがありました。
もう一人、動物電気の小林健一は敢闘賞でしょうか。前回見た拙者ムニエルでも敢闘賞もののがんばりを見せていましたが、今回も空回りする元気を面白く演じていました。

ロ字ック「鳥取イブサンローラン」

2015年10月6日 19時30分開演 下北沢シアター711
作・演出:山田佳奈
出演:堂本佳世、小林小倫、小川夏鈴、遠藤留奈、日高ボブ美、山田佳奈、那木慧、鈴木理学、圓谷健太、山田ジェームス武
一番印象的だったのは、ロ字ックの制作によるであろうTwitterのこの芝居の感想のリツィート攻勢でした。こまめにエゴサーチしてリツィートしているらしく,一時期、私のタイムラインは鳥取イブサンローランの感想であふれかえりました。それによると、「女性のいやなところを余すことなくさらけ出し、観劇後も体の震えが止まりませんでした。」とのことで、それだけ読むと大傑作のように思えます。
実際見てみると、それほどのととはないという感じです。確かに、「言いたいことはある。でも、どう言っていいかわからないまま、芝居にしてしまった。」というのが正しいところだと思います。
主人公の女性の「自分の性格のいやなところを考えると、うわーという感じになる。」という台詞などは、私が男だからもしれませんが、「なんじゃ、それ?」という感じにしかなりません。
決定的にまずいのは、手首を切って入院していたチーママ(山田佳奈)が復帰したウエルカムパーティーで、「私はこういう生き方しかできないから」という前置きつきで店の女の子達に「私のお客さんと寝ただろう。」と,問い詰めるシーンです。ここで今まで本音とお愛想が入り混じった生ぬるい空気が、一気に本音同士がぶつかり合う緊迫した空気に転換しなければいけないのに、山田佳奈の芝居が下手すぎてグダグタになり、壁をぶち破る激しい芝居も、段取りにしか見えなくなってしまいました。
当日パンフに作・演出の山田佳奈がご挨拶として、「初演の台本を読み返すと、ハチャメチャだったんだなと思う。行き過ぎた自意識と未熟な技量。パンクだった。自分のことを理解してくれない大人に,唾を吐く気持ちも強かった。でも、今は、そういう感情を忘れつつあるのです。葛藤することはまだまだ絶えないけれど、それでもいろいろ許すことができるようになりました。」と、書いています。
これを読んで芝居を見ると、初演の方が面白かったのではないかとさえ思えてしまいます。言いたいことを表現できる新しい方法論も見つけられないまま、年だけ取ったのかもとも思えます。

木ノ下歌舞伎「心中天の網島」

2015年10月5日 19時開演 こまばアゴラ劇場
作:近松門左衛門
監修・補綴:木ノ下裕一
演出・作詞・音楽:糸井幸之介
出演:伊東沙保、小林タクシー、島田桃子、武谷公雄、西田夏奈子、日高啓介、若松朋茂
洋の東西を問わず、古典を演じるのは難しいことだと実感しました。
杉原邦生があまり好きではないので見にいかなかった木ノ下歌舞伎ですが、今回、演出がFUKAI PRODUCE 羽衣の糸井幸之介であること、伊東沙保が出演していることで見にいきました。
今回の上演では現代語と七五調の台詞、さらに歌まであって、観客を楽しませてくれるのですが、問題は七五調の台詞です。役者に古典の素養があるか、もしくはそれに変わる何かがないと,ただ怒鳴ったり上滑りなったりするだけで、台詞が聞こえてきません。その点、合格なのは伊東沙保と武谷公雄の二人だけでそれ以外は全然だめでした。この差はひとえに役者の技量の差でしょう。
オープニングの歌で、丁稚役の若松朋茂が自分のソロパートの頭で大きく音を外して歌い出したときにはどうなることかと思いましたが、その後は何とか持ち直して進み出したときには、密かにほっと胸をなで下ろしました。
古典では、様々にディフォルメされたキャラクターをリアリティを持って演じることが要求されると思うのですが、七五調と現代語の入り混じったこの形式では、それがいっそう困難になっているようにも感じました。
一部では、この木ノ下歌舞伎の意義を高く評価する動きもあるようですが、私にはあまり意義が感じられませんでした。

清水宏「清水宏の世界で汗をかく!!〜アメリカ・カナダ・エジンバラ コメディーツアー奮闘記」

2015年9月30日 19時開演 渋谷シブゲキ
作・演出:清水宏
出演:清水宏
今年の夏4ヶ月にわたるアメリカ、カナダ、イギリスを股にかけたコメディーツアーの報告ライブでした。前日がアメリカ、カナダ編で、私の行った日はイギリスエジンバラ編でした。
冒頭で、今年からストーリーテリングというスタイルを始めたこと、そのストーリーテリングがアメリカ、カナダでは大受けで,カナダのあるフェスティバルでは賞まで取ったことを話し、エジンバラでの話に移ります。
5年目となるエジンバラでは油断と慢心とチラシの印刷が遅れるというアクシデントに見舞われて,さんざんだったことが延々と語られていきました。
すごいと思ったのは,聞くだけでも辛い話を長々と2時間も話して、悲しい話だけれども笑える話になっている,構成力と話術です。一人で2時間話し続けるだけでもすごいことなのに、山あり谷ありの構成で聞いてて飽きませません。
思いつきで話しているように見えますが、練りに練った台本があるに違いありません。
ラストは長いつきあいの映像作家との仲違いを語り、今後一緒にやっていくかどうかの選択を迫るというドラマチックな形で終わります。単に面白いだけでは終わらない、充実した2時間でした。
しかし、私が本当に好きな清水宏は芝居をしている清水宏です。本人は芝居のことを「愛しているけれども、憎んでもいる。」と言っていました。私にとっては、その芝居の中に完全には同化できないことにいらだちを感じ、また申し訳ないとも思いながら演技している清水宏を見るのが好きです。11月にカムカムミニキーナに客演するので、是非見にいこうと思っています。
最後に、どうでもよいことですが、清水宏は矢沢永吉によく似ています。本人も自覚があると思いますが、ふとした横顔や、しゃべり方がそっくりです。

2015年10月5日月曜日

カタルシツ「語る室」

2015年9月21日 18時開演 東京芸術劇場シアターイースト
作・演出:前川知大
出演:安井順平、中嶋朋子、盛隆二、大窪人衛、板垣雄亮、浜田信也、木ノ下あかり
イキウメの別働隊、カタルシツの公演を見にいきました。
これまでのカタルシツは一人芝居ばかりやってきて、モノローグの可能性を追求しているのかと思っていましたが、今回は7人が出演する普通にイキウメらしいSF的な設定の芝居でした。
これはイキウメの芝居の弱点、「SF的な設定のため、どうしても劇中で説明することが増えてくる、うまく台詞の中にちりばめられたときはよいが、往々にして説明のための台詞になってしまいしらけてしまう。」を解消するために、カタルシツで得た一人語りのノウハウを使ってみようとしたテスト公演ではないでしょうか。
結果は一定の成功を収めていて、そんなにしらけることもなく、スムーズに芝居は流れていきました。ただ、モノローグの得手不得手はあるようで、安井順平と占い師役の板垣雄亮は問題なくこなしていましたが、盛隆二や浜田信也あたりは少し辛いところもありました。もっとも、一人語りの向き不向き
は役のキャラクター設定とも密接な関係があり、いわゆるクールな性格設定の役は自分を客観視して話しても無理がありませんが、熱中系のキャラクターには無理が見えます。
これで一定の成果を上げたと見えるカタルシツは、今後どうなっていくのでしょうか?
カタルシツの次の公演はないかもしれません。

2015年9月21日月曜日

風琴工房「無頼茫々」

2015年9月16日 19時30分開演 下北沢ザ・スズナリ
作・演出:詩森ろば
出演:板倉チヒロ、吉増裕士、金成均、杉木隆幸、永山智啓、荒木秀智、栗原茂、酒巻誉洋、桑原裕子、今藤洋子、とみやまあゆみ、川村紗也、たなか沙織
前作「Plenty Killing」で痛快にして密度の濃い傑作を上演した風琴工房の次回作は、一転して社会派ドラマでした。再演だそうですが、当然、私は前回の公演を見ていません。
安保関連法案が成立しそうな時期で、国会前には連日大勢のデモ隊が押し寄せています。そんなときに、大正時代の言論の自由をめぐる芝居を上演するのは、タイムリーと言えばタイムリーなもかもしれません。
Twitterの感想で、誰かが「教科書を読むような」というようなことをつぶやいていましたが、問題はそこにあるように思えます。日本の芝居でこのような理念に関することを扱うと、台詞が具体的なことを語っているにもかかわらず、すべて説明的に聞こえてきます。これは、日本が理屈を述べるのに向いていないためか、役者の力量不足なのか、よくわかりませんが、延々と理屈を説明されている印象だけが残ります。
この芝居でもそうでした。本文にあたる部分では丁寧に具体的事実とそれに対する人々の気持ちを語り、転換では一転して音楽に合わせて楽しく,スピーディに進めて、メリハリをつけるという工夫にもかかわらず、残った印象は、2時間オーバーの説明大会というものでした。
イギリスやフランスの演劇では、「舞台で哲学や思想を語る」ことが好まれ、それを可能にする文学的な蓄積があるのですが、日本文学は情緒や叙情を語ることには長けていても、理論の語る歴史はあまりありません。そこら辺の差が、こういう芝居にも如実に表れているようです。

2015年9月17日木曜日

「PIPPIN」

2015年9月16日 14時開演 渋谷東急オーブ
S席で13000円という高額なチケットにかなり迷ったのですが、色々調べてみると結構よいメンバーで来日しそうなことや、今まで見たブロードウエイミュージカルの中でも、10本の指に入るほどの傑作を、もう一度見たいという想いが高まって行くことに決めました。
最後の決め手は、最前列のほぼセンターの席が取れたことです。
勢いついでに、出演者を知るために1800円も出してプログラムまで買ってしまいました。
プログラムによると、半数以上が2013年のブロードウエイ再演に出演経験者であり(さすがに、オリジナルキャストはいませんでしたが)チャールズを演じたジョン・ルービンスタインは、なんと初演のピピン役のオリジナルキャストでした。
2013年版のプロデューサー陣にキョードー東京が参加しており、思えばこの日本公演を見据えての出資だったのでしょう。
私がブロードウエイで見たのが2014年の10月で、どうしてもその時の印象と比べてしまうのですが、アクロバットやダンスなど、言葉によらない表現は気にならないのですが、言葉を使う芝居の部分が弱いと感じました。これは、字幕が出るために、どうしてもそちらを見てしまい、舞台に集中できないという状況のせいもあると思いますが、それだけではないと思います。
このミュージカルの一応の主役であるピピンは、一座の新人役者であるという設定があるのでカリスマ性や高度な演技力をそれほど要求されません。代わりに、リーディングプレイヤーにお話しを引っ張っていくだけの魅力が必要となり、それを支えるために緻密なアンサンブルがアクロバットプレーヤーも含めて必要になってきます。そのアンサンブルが弱くて、その分、個人技が悪目立ちしがちでした。特に、リーディングプレイヤーはブロードウエイでは小悪魔的な魅力に溢れて魅力的でしたが、日本版は小悪魔と言うよりは口うるさい女教師のようで、後半のキャサリンへのだめ出しが本当はピピンへのいらだちの表れであるはずなのに、単なる下手なキャサリン役者へのいじめのように見えてしまうとろなどがあり、少々、残念でした。
とはいえ、傑作ミュージカルであることは変わりありません。
機会があれば、また、是非みたいです。

2015年9月12日土曜日

表現さわやか「TanPenChu−」

2015年9月7日 19時開演 赤坂レッドシアター
作・演出:池田鉄洋
出演:鈴木砂羽、岩崎う大、槇尾ユウスケ、梅船椎永、浅野千鶴、大夢、佐藤真弓、いけだしん、岩本靖輝、池田鉄洋
Good Morning No.5と同じ年一興行の表現さわやかを見にいきました。クリエの公演の時も思ったのですが、池田鉄洋という人は、結構器用というか頭のいい人で、会場や出演者に合わせて、見せ方をうまく変えて演出できるところに感心しました。基本の、実にくだらないことはしっかり守りながら、少し味付けを変えて上品そうに見せる。表現さわやかを知っている人には基本は全く変わってなくてくだらないまま、ゲスト出演の多い今回や、いつもと違うクリエのお客さんにも、そんなに抵抗なく笑ってもらえる、そこら辺のさじ加減が実にうまいです。描くシーンのコントの寄せ集めでありながら、何となくストーリーがつながっているように見えるのも、飽きなくていいです。

Good morninng No.5「世界征服ナイト」

2015年9月5日 19時開演 下北沢OFFOFFシアター
作・演出:澤田育子
出演:岸本卓也、塩田康平、白柏寿大、藤田記子、澤田育子、境秀人、石田周作、稲垣潤一、佐藤貴史
Good morninng No.5の年一興行の二本目は、珍しく藤田記子、澤田育子の二人以外は男優7人で繰り広げられるドタバタコメディでした。
作品的にはこちらの方がはるかに楽しめました。ストーリーはあってなきがごとしで、そのシーン、そのシーンの役者の立ち振る舞いを単純に楽しめばよい、という感じでしょうか。私のイメージするGood morninng No.5らしいと言うことだと思います。
限られた時間で日本の演目をやるのは、時間的にも体力的にも難しいと思います。
片方は、芝居としてやり、もう片方をバラエティ的にやるという方針は、わからないでもありませんが、私的には、両方バラエティでいって欲しかったです。

Good morninng No.5「breakfast, kani」

2015年9月5日 14時開演 下北沢OFFOFFシアター
作・演出:澤田育子
出演:藤田記子、澤田育子、久保田南美、佐々木彩、MINAKO
年に一度のGood morninng No.5の公演、今年は2本立てでした。一本目は、女優5にんによる「breakfast, kani」でしたが、残念ながらあまり面白くありませんでした。私がGood morninng No.5で楽しみにしているのは、芝居が役柄に収まりきらず、素が時々見えてしまうところです。それからいうと、この演目はお芝居お芝居しすぎていて、あまり楽しめませんでした。
「高校時代、女優倶楽部というわけのわからない遊びをしていた二人が、卒業後、いじめていた方は売れないピン芸人になり、いじめられていた方がその専属作家になる。やがて、作家hネタにつまって書けなくなり、偽装自殺を図る。」
うまくひねりを加えたらいくらでも面白くなりそうな設定も、ストレートにやってしまっていて、ピン芸人役の藤田記子のがんばりが痛々しいだけに終わってしまっているのが残念でした。

2015年9月7日月曜日

サムゴーギャットモンティブ「さよならサムゴー〜いつかはギャットモンテイブ」

2015年9月3日 19時30分開演 新宿SPACE雑雄
作・演出:山並洋貴
出演:石川いつろう、片腹年彦、川上ルイベ、近藤丼、杉田有司、田島慶太、福田神德、安田侃司、吉成豊、石原みゆき、木野真白、佐野恭代、澤崎妙、篠原希帆、高橋エリカ、田島冴香、田中渚、中村倫子、永山千晶、年代果林、三澤久美、関大輔
劇団名(正しくは山並洋貴の個人ユニットのようですが)のおもしろさと、下ネタ満載というチラシの文句に惹かれて見にいきました。
ちなみに、サムゴーギャットモンティブというのはキックボクサーの名前からきているようです。
22名の高校生の夏休みのさまざまなエピソードが語られていきます。他愛のないもの、シリアスなもの、ドラマティックなもの、最初はさりげなく、話が進むにつれて演出的にも盛り上がる形で展開していき、その筆力、演出力はかなりのものです。しかし、役者が下手では話になりません。そこいらの安い学園ドラマをみているような気になります。演出を考える前に役者の演技力を何とかして欲しい、そこにこそ力を注ぐべきではないかと思ってしまいます。まあ、劇団ではない個人ユニットでは限界があるのかもしれませんが。
話を盛り上げてうまくまとめる力はあるのですが、安いテレビドラマではないなにかがないと舞台では面白いとは言えないと思います。もしかしたら、それが下ネタ満載だったのかもしれませんが、今回は下ネタらしい下ネタもなく、決定力不足ということでしょうか。

2015年9月3日木曜日

「転校生」

2015年9月1日 19時開演 六本木ZEPPブルーシアター
作:平田オリザ
演出:本広克行
出演:逢沢凜、秋月三佳、芦那すみれ、生田輝、石山蓮華、石渡愛、伊藤優衣、伊藤沙莉、今泉玲奈、折館早紀、川面千晶、堺小春、坂倉花奈、桜井美南、清水葉月、多賀麻美、永山香月、藤松祥子、南佳奈、森郁月、吉田圭織
客席に入ると、舞台にはスクール机と椅子が並び、正面奥には役者達が座っている控え椅子がずらりと並んでいました。その上には大きなスクリーン、上下にも一回り小さなスクリーンがぶら下がっています。舞台前方には白い窓枠が上下にひとつづつ吊られていました。見た途端にいやな印象を持ちましたが、始まるとそれは最悪の形で現実の物となりました。なんと、正面スクリーンには一部では有名なあの平田オリザの3段台本が投影され続けるのでした。ご丁寧に今喋っているところが、明るくなってどの台詞をいっているのかすぐにわかる工夫までされていました。上下のスクリーンには、上袖、下袖のカメラからのアップがずっと映されていました。
確かに平田オリザの3段台本は会話同士が重なることがよくあり、台詞が聞き取れないこともあります。その対策としての親切心からの演出なのかもしれませんが、私は最後まで舞台に集中できず、最悪の観劇経験になりました。
できることなら、演出の本広克行に詰め寄って釈明を求めたいほどです。
21年前の初演も見ているのですが、会話がかぶって聞き取れないことなど全く気にならず、彼女たちと一緒の教室にいて微妙な心境の変化をともに感じ、ラストシーンの触れるか触れないかぎりぎりの指先に将来への不安を感じて涙したのに、今回のようにがっちり握手されて、その上それを天井からのカメラでクローズアップにされては台無しです。
KAATの大石さんが言っていたように、「映画監督が舞台の演出をすると、絵に落とし込んで解決しようとする。」、その最悪の例がこの芝居だと思います。
1400名あまりが参加したオーディションを勝ち抜いてきた21名の若い女優にとっても、不幸な出来事と言うしかありません。

2015年9月2日水曜日

泥棒対策ライト「みぞおちララバイ」

2015年7月31日 14時開演 上野ストアハウス
作・演出・振付:下司尚美
出演:金川周平、川尻麻美夏、近藤彩香、佐々木富貴子、野口卓磨、萩原亮介、的場祐太、下司尚美
ダンスの公演が苦手な私が積極的に見に行こうと考える梅棒と、もうひとつの泥棒対策ライトの公演を見にいきました。前回は、結構シリアスよりな内容で困りましたが、今回も後半シリアスで疲れました。
前半は、コントというか小さな芝居とそれから派生するダンスという構成で、面白かったのですが、後半はダンスの連続で,私の集中力が続きませんでした。
きっと、根が真面目な下司直美が、余裕がなくなって地の真面目さが露骨にでてしまったのでしょう。
次回公演を見にいくか簿妙なところです。

梅棒「クロスジンジャーハリケーン」

2015年8月29日 19時15分開演 俳優座劇場
作・総合演出:伊藤今人
脚本助手:梅澤裕介
振付・監修:梅棒
出演:遠山晶司、天野一輝、大村紘望、塩野拓矢、遠藤誠、鶴野輝一、飯野高拓、櫻井竜彦、梅澤裕介、伊藤今人
オープニングのDJのお悩み相談のはがきが妙にシリアスで、どうなることかと少し心配しましたが、場面が進むごとにネタが炸裂する怒濤の展開で笑わせていただきました。「内容は一切ないがただただ面白い」ことは現代の日本では貴重な集団だと思います。
要するに、「JAZZ DANCEによる大衆演劇」とでも呼べばよいと思います。この先も息切れしないで、少しでも長く続いてくれることを祈るばかりです。

KUNIO12「TATAMI」

2015年8月29日 14時開演 神奈川芸術劇場大スタジオ
作:柴幸男
演出:杉原邦生
出演:森下亮、武谷公雄、大石将弘、亀島一徳
「わが星」という傑作を書いた柴幸男の新作脚本と言うことで見にいきました。演出の杉原邦生にに関しては、木ノ下歌舞伎の演出を何本もやっていて古典を現代風に演出する人という程度の認識しかありませんでした。実は、何年の前のT-PAMで演出した作品につきあっているのですが、その時の印象は、「乱雑、うさんくさい」というようなあまりいいものではありませんでした。
そのため、ほとんど期待しないで見にいったのですが、おもいもかけず面白いものでした。
ただ、その面白さの大部分は、柴幸男の脚本と主人公のタタミ屋を演じた武谷公雄の演技力によるものです。杉原邦生自身による美術や演出は、全てをたたんで何もなくなった情景を表すのに,わざわざバトンに大きな白布を吊して見せたり、声をたたんだ主人公の内面の声を聞かせるために小さなスピーカーを寝ている主人公の上に下ろして見せたりするようなあざといものが目立ち、芝居の邪魔をしているようにさえ見えました。
極めつけは、ラストシーンで息子が天から降ってきたロープを引くと金ラメが降ってくる演出で、完全にいらないシーンでした。

DULL-COLORED POP「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」

2015年8月29日 10時開演 王子スタジオ1
作・演出:谷賢一
出演:大原研二、東谷英人、堀奈津実、深沢未来、塚越健一、渡邊りょう、中村梨那、百花亜希
今まで谷賢一の作・演出の芝居を何本か見てきましたが、一番面白かったです。
家族のためを思ってがみがみ言ってきたお母さんが、お父さんの突然の事故死をきっかけにその欺瞞と矛盾が表面化して,心身症すれすれになっていく。そのおかあさんの心情を黒猫とベージュ猫が無邪気な形で語っていく。どこの家庭でもありそうな風景がリアルにくっきりと浮かび上がります。ひとつ残念なところは、お母さん役の大原研二ががんばりすぎで、お母さんの存在の痛々しさなのか、演技のがんばりすぎの痛々しさなのかよくわからなくなるところでしょうか。

「気づかいルーシー」

2015年8月26日 19時開演 東京芸術劇場シアターイースト
原作:松尾スズキ
脚本・演出:ノゾエ征爾
音楽:田中馨
出演:岸井ゆきの、栗原類、山中崇、小野寺修二、川上友里、山口航太
松尾スズキの絵本を基にノゾエ征爾が脚本・演出した一応子供向けの芝居ですが、残念ながら失敗作と言わざるをえません。岡田利規の「わかったさんのクッキー」の時にも思ったことですが、子供に対して礼儀正しすぎるのだと思います。
子供向けと思われるデフォルメされたキャラクターを役者たちは一生懸命演じているのですが、その演じているというところがネックになって子供たちの心に響いていかないように見えました。逆に最初の栗原類の登場は皆の期待を集めた大きなバルーンという扮装で、全く意味のない演技に終始して面白かったです。その栗原類も、王子の皮を被ったおじいさんという設定になると,普通に演技し始めて面白くなくなります。
子供とその付き添いの大人両方にわかる芝居をと考えてのかもしれませんが、結果、虻蜂取らずになってしまいました。

子供鉅人「真昼のジョージ」

2015年8月22日 14時開演 新宿サンモールスタジオ
作・演出:益山貴司
出演:影山徹、益山寛司、億なつき、キキ花香、山西竜矢、ミネユキ、益山U☆G、益山貴司、吉田カルロス、小林義典、久保田武人、岩坪成美、新藤江里子
大道具、小道具、かつら、衣装の一部まで全てダンボールでつくるという思いきった試みでしたが、残念ながら失敗作と言わざるをえない結果となりました。
表に荒野の絵、裏面にダンボール工場の絵を描いた切り出しをはじめ全てが説明でしかなく、予算節約のためにダンボールを採用したとしか思えませんでした。説明台詞の異常な多さもあいまって、うるさすぎる舞台は全く耳に入ってきません。
前回見た「ハローヘル」のようなぶっ飛んだ発想も陰を潜めて、金の切れ目がアイディアの切れ目と言う感じです。ダンボールのセットが悪いわけではなく、ダンボールを使う必然が全く感じられませんでした。

砂地「唄わない冬」

2015年8月21日 19時開演 新宿Space雑遊
作・演出:船岩祐太
出演:小瀧万梨子、今國雅彦、梅村綾子、井手麻渡、松本光生
劇団のTwitterに「今日からミザン稽古です。」というつぶやきがありました。「ミザン」という知らない言葉を検索してみたところ正しくは「ミザンセーヌ」というフランス語で、ウィキペディアによれば「演劇界および映画界において用いられる表現であり、おおまかに「作品の筋、登場人物を作り出すこと」を表す語である。「演出」の訳語があてられる。もとは演劇から発生した言葉であり、字義通り訳せば「舞台に置くこと putting on stage」の意である。」と言うことでした。これを信じれば、「演出稽古」と言うことになりますが、そのほかの検索結果もふまえて考えると、役者の立ち位置などを整理して演出意図を明確にする稽古のようです。
この芝居は登場人物5人のうち3人が死んでしまっているところから始まります。芝居の流れは現実どうり未来に向かっていく流れと、過去にさかのぼっていく流れが交互に現れます。死んでいる3人には死者のポジションとでも言うべき立ち位置が壁際に各々あり、基本的に喋らないときはその場所にいます。それが芝居の構造を明確にするのにかなり役立っていますが、それがミザン稽古の成果でしょうか。
この芝居のポイントは、死んでしまう主人公の女の心の空虚さです。その空虚さを埋めるため自分勝手に他人を引きずり込んだり、過度に他人に依存したりしていきます。結局、その空しさは埋まることなく死んでいくことになります。
砂地の芝居の魅力は、演劇の理論的な研究から来る折り目正しさだと思います。その折り目正しさが、他の小劇場演劇とは全く違う肌触りとして一種独特の雰囲気を醸し出しています。

2015年8月12日水曜日

鉄割アルバトロスケット「HODOCHICCHI」

2015年8月10日 19時30分開演 下北沢ザ・スズナリ
作:戌井昭人
演出:牛島みさを
出演:戌井昭人、奥村勲、中島朋人、中島教知、村上陽一、マークス雅楽子、向雲太郎、南辻史人、松原東洋、渡部真一、東陽片岡、山本ロザ、池間由布子、横山智輝、古澤裕介
最近、過剰なものを求めている私ですが、「謎のパフォーマンス集団」鉄割アルバトロスケットでは、少しもの足らないようです。名前の面白さにつられて前々からみたいとおもっていましたが、いざ見てみるとそのオフビートなオチの付け方には興味をそそられるものの、全体の緩さについて行けませんでした。2時間半の中に37ものコントのようなものが詰め込まれていて、ほとんどの演目は残念ながら面白くありませんでした。
となりの何回か見ているらしい人も、「今回はあまり面白くない。前回は、・・・・・」とガールフレンドらしき女性に一生懸命言い訳をしていましたから、出来不出来が激しいのかもしれません。ただ、かかる音楽は、私の趣味と似ていて面白いものが多かったです。

土田英生セレクション「算段兄弟」

2015年8月9日 15時開演 三鷹市芸術文化センター星のホール
作・演出:土田英生
出演:村岡希実、竹井亮介、尾方宣久、渡辺啓太、高橋明日香、もたい陽子、七味まゆ味、土田祐太、大村わたる、石丸奈菜美、本多力、土田英生
土田英生セレクションというのは、過去の土田英生の脚本を彼の望む配役で再演出するというシリーズで、「算段兄弟」で3回目だそうです。
脚本は、「しらふな顔でしれっとシュールなことを言い放つ。」という土田の特色がよくでた面白い物でしたし、役者もそれなりに適材適所でうまい人がそろっていました。全体の印象としては中の中という感じで、過剰な物が見たいという私の最近の気持ちからすると、あまり面白いとは言えない物でした。
一番気になったのは、男優陣がデフォルメされた極端な性格を演じていたのに比べ、女優陣はおしなべてノーマルな性格を演じていたのが気になりました。
ラストで女性だけが死んだ父親の家に集まって、いわゆる女子会を開くという設定から逆算されたものだとは思いますが、そこに行くまでは、結構違和感がありました。

東葛スポーツ「ニューヨーク、ニューヨーク」

2015年8月1日 21時開演 3331 Arts ChiyodaギャラリーB
構成・演出・DJ:金山寿甲
出演:古関昇悟、牛尾千聖、金山寿甲
前回、あまりのとちりの多さに妙に感動した東葛スポーツをまた見てきました。今回は、上演時間1時間、登場人物も3人だけでしかも再演ということで、前回あんなに多かったとちりも目立った物は1回だけというスムーズな展開でした。しかし、そのとちりの少なさに正比例して面白さも半減していました。
今回は、Nasの「illmatic」というヒップホップのCD制作のドキュメンタリーらしい映像をバックにこたつにはいった男女がお互いにdisりあうという構成でしたが、そのラップの歌詞もその場でスーパーインポーズするのではなく、あらかじめ制作された歌詞つきの映像を流すなど、進化していました。しかしスムーズに行けば行くほど、面白くはなくなります。
ラストも、ニューヨークに行きたいと願う女は実は下半身麻痺で、男の助けがなければトイレにも行けないという妙にウェットなオチで終わります。内容もなければ、それほど面白くもないというないないづくしの芝居でした。
やはり、前回の面白さはあまりのとちりの多さに笑ってしまうしかないという面白さだったようです。

ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」

2015年8月1日 14時開演 小田原市民会館
作・演出:岩井秀人
出演:田村健太郎、岡田瑞穂、後藤剛範、平原テツ、チャン・リーメイ
なかなか見ることのできなかったハイバイの代表作「ヒッキー・カンクーントルネード」を小田原まで出かけてみることができました。
2012年にパルコ劇場で、「ヒッキー・ソトニデテミターノ」を見て面白かったことは覚えているのですが、「ヒッキー・カンクーントルネード」はたびたび再演されているにもかかわらず、スケジュールが合わずに見逃していました。それでこのたび思いきって、チケット代金と同額の交通費2500円を払って,小田原まで見にいったわけです。
小田原市民会館に入ってみると、舞台の上手半分が客席、下手半分に黒パンチがひいてあって舞台というしつらえになっていました。道具もダイニングテーブルとイス、カーペットとハイバイオリジナルの2つのどこでもドアなど簡素な物だけで、運搬もハイエース1台で済むのではないかと思えるほどでした。
さて肝心の芝居ですが、これは感心はするが感動はしないという結果となりました。主役の引きこもりである登美雄の演技のせいか,私の年のせいか一切感情移入できず、お母さん役の平原テツの演技に感心するばかりとなりました。平原テツの女形を見るのは初めてでしたが、無理に女性に寄せようとはせず、いつものまま、台詞だけ女性言葉にしてあるだけという思い切りの良さが,リアリティを増していました。登美男は何を言っているのかよくわからず、最後までなにをいっているのかわからないままでした。

2015年7月23日木曜日

ベッド&メイキングス「墓場、女子高生」

2015年7月21日 19時開演 東京芸術劇場シアターイースト
作・演出:福原充則
出演:清水葉月、根本宗子、青山美郷、望月綾乃、山田由梨、杉ありさ、葉丸あすか、佐藤みゆき、猫背椿、竹森千人、中山祐一朗、富岡晃一郎
ひさしぶりに本当にいい芝居を見て,幸せな気持ちになれた一夜でした。カリスマ性にあふれた作家、演出家、役者が現れにくい今の時代ですが、才能がある人がいないわけではなく、全員で力を合わせて自分たちの特徴を突き詰めていけば,なでしこジャパンのようによい芝居を作れるのだということを実感しました。
まず第一に,本と演出が素晴らしい。当日パンフによると福原充則がこの芝居を演出するのは4回目と言うことで、手慣れた感じで役者の個性を引き出しつつ、物語を進めていきます。その上に乗っかって、役者陣が自由に演じている感じがびしびし伝わってきます。
ある日突然自殺してしまう主人公を演じた清水葉月は,見た目と演技はちょっと劣化した蒼井優のようですが、透明感のあるみずみずしい芝居で全体を引っ張っていきます。ひとつ間違えるとイタイ発言を連発する不思議ちゃんになりそうですが、そうならないようせりふは注意深くコントロールされていました。
次に、大人サイドを一人でしょって立ち、見事にその大役を果たした猫背椿も素晴らしかったです。女子高生7人を相手に一人で大人のだめさ加減を十二分に発揮して見事でした。
「南の島に雪が降る」では、サイドストーリーでの登場で印象が弱かったですが、今回はその実力を見せていただきました。何しろもう一人の大人サイドのサボってばかりいるサラリーマンの富岡晃一郎は、「大人なのに、社会のルールがわかりません。」などとほざいている中途半端な設定なので、猫背椿ががんばるしかないのです。というか、今回の富岡晃一郎は完全に猫背椿の引き立て役で、その意味では実に好演していました。
びっくりしたのは、根本宗子でした。以前、彼女が主宰する「月刊根本宗子」の芝居を見にいったことがあるのですが、肩肘張った物言いが目立つ言動の割に芝居は面白くない、よくあるパターンの演劇人だと思っていましたが、今回の彼女は違いました。自殺した清水葉月を生き返らせようと、必死で訳のわからない呪文を唱え続けるうぶで真面目でかわいい女子高生を熱演していました。なにしろ、赤い鳥居を背負い,鳥居のペンダントをぶら下げたセーラー服で登場するのですから、笑ってしまいます。演出家によって役者が見違えるよい例だと思います。
残念だったのは、清水葉月、根本宗子以外の女子高生がみんな足が太くて女子高生に見えなかったことです。逆に根本宗子は中学生くらいにしか見えませんでした。

さんぴん「NEW HERO」

2015年7月17日 19時30分開演 東京芸術劇場アトリエイースト
作・演出:さんぴん
演出監修:三浦直之
出演:板橋駿谷(ロロ9,北尾亘(Baobab),永島敬三(柿食う客)、福原冠(範宙遊泳)
色々な劇団に所属する若手男優が4人集まって、一般の人々にインタビューをし、それを自分たちなりに構成・演出して物語るという試みでした。なぜ彼らがそんなことを思いつき、実行に移したのかはわかりませんが、面白い試みだとは思います。
一般の人々とは言え、その中には彼らの肉親も(主に、祖父や祖母)含まれるため、その距離感が露骨に話し方に反映されてしまいます。知らない人に聞いた話は結構客観的に再構成されて聞きやすいのに、肉親の話は情に流されて聞きにくいところが多々ありました。その揺らぎと、話をまとめなければいけないという意識が、スケールを小さくしているように見えました。どちらかに振り切って進まないと、進路は見えてこないと思います。
客観的に進むなら誰か第三者の脚本家が必要だと思いますし、情にながされるなら、集団演出は難しいと思います。(悪のりという形で、一気にエスカレートする可能性はありますが、持続はできないと思います。)
役者としては、板橋駿谷が目につきました。筋トレ好きなのは知っていましたが、4人の中で際立った肉体を持っているのに、不器用で板橋駿谷以外を演じられないところに好感が持てます。他の3人が結構小器用に役を演じ分けてくるので、その不器用さがいっそう目立ちます。できれば、この不器用さのまま、成長していってほしい物です。

2015年7月17日金曜日

長塚圭史「かがみのかなたはたなかのなかに」

2015年77月11日 17時開演 新国立劇場小劇場
作・演出:長塚圭史
振付:近藤良平
出演:首藤康之、近藤良平、長塚圭史、松たか子
2013年と同じ座組で、いちおう子供向けの企画ですが、子供より大人の方が楽しめる仕上がりでした。首藤康之と近藤良平、松たか子と長塚圭史がペアで,鏡のこちらと向こうの人物を演じるという設定で、タイトルもそれに準じたアナグラムになっています。設定、ストーリーともに前回よりスマートになっており、それは進歩だと思うのですが、そのため菊花(仮)が少なく、私には前回の方が楽しめました。鏡の世界なので、ミラー振りとでも言うのでしょうか、二入が鏡のこちらと向こうのように左右対称に踊る場面が何度かかるのですが、どうしても相手の動きを意識して踊らざるをえないので、いつもの伸びやかな,自由な感じがなくなっていたのが残念でした。
今回の最大の収穫は、長塚圭史の女装でしょうか、あれだけ背の高い人が女装すると、あんなに悲惨なことになるという見本です。

悪い芝居「キスインヘル」

2015年6月29日 19時開演 赤坂レッドシアター
作・演出:山崎彬
出演:横田美紀、渡邊りょう、田中良子、土屋シオン、山崎彬、中西柚貴、長南洸生、植田順平、岡田太郎、畑中華香、四万十川友美、北岸淳生、呉城久美
悪い芝居ならぬひどい芝居を見てしまいました。現代の純愛を描こうとして、最初に真逆の恋愛感情を利用して商品を売りつけることを仕事としている人々と、愛なんかない、精子と卵子の結合こそが全てだと主張する原理主義者を出してきて、その人々が純愛に目覚める逆転劇にしようとしたのだと思うのですが、肝心の純愛がうまく表現できず、バンド演奏で無理矢理盛り上げて終わるという,演劇としては最低の終わり方でした。舞台上での生演奏が妙にうまくて、多分、ミュージッシャンに芝居を教えたのだと思うのですが、それがまた妙に通り一遍の芝居を小器用にこなす結果となり、この芝居の失敗の一因になっているような気がします。
ラストの演奏中、することもなく舞台に佇む原理主義者の役者が,脚本家としての山崎彬に見え、無理矢理盛り上げようとマイクで客をあおり、客席を駆け回る山崎本人は演出の焦りと絶望感そのものでした。

2015年6月27日土曜日

NewYork 2015 No.14 Broadway Musical 「On The 20th Century」

2015年6月21日 14時開演 American Airlines Theatre
約40年ぶりの再演になるミュージカル・コメディで、「On The Town」などと同じ時代の作品です。典型的なミュージカル黄金時代の作品で、絵に描いたような要素がちりばめられていました。ショー・ビジネスのバック・ステージ物で、はったり屋の落ち目のプロデューサー、頭の弱い女優、怪演をきわめる老女優などなど、面白さてんこ盛りなのですが、新しい物はひとつもないのが残念です。それが気になります。リバイバルといえども、新しい切り口がな寝れば、面白いとはいえなのではないでしょうか。

NewYork 2015 No.13 Broadway Musical 「The King And I」

2015年6月20日 20時開演 Vivian Beaumont Theater
2015年のトニー賞のミュージカル主演女優賞を受賞したケリー・オハラが出演している「King And I」を見ました。受賞直後ということもあるのか、彼女が登場しただけで拍手がおきるほどで、彼女の人気がうかがえます。何度もノミネートされた末の受賞ですから、本人もさぞ嬉しかったことでしょう。
日本人としての興味はどうしても、王様役の渡辺謙の演技ですが、これは微妙なものがあります。シャムの王様といえば、日本人にとってもエキゾチックな物だと思うのですが、渡辺謙の演技は、けしてうまいとはいえない英語を喋りながらくさい芝居をしているとしか見えません。しかし、ケリー・オハラとのダンスシーンはとても素敵だったので結果、よかったのではないでしょうか。
芝居のラスト近くで、シャムの補佐役が苦々しくつぶやく、「She destryed KIng」という台詞に象徴しているように、この芝居には西洋文明が東洋を滅ぼしていくというストーリーが基本的に流れています。そしてそれを肯定しています。初演当時はそれでよかったのかもしれませんが、現代に上演するときにはそれでよいのでしょうか?
同じリンカーン・センターのリバイバル・シリーズとして上演された「南太平洋」の人種差別の扱い方の時も感じたのですが、さしたる反省もなくそのまま上演する体制は疑問が残ります。

2015年6月23日火曜日

NewYork 2015 No.12 Broadway Musical 「aladdin」 again!

2015年6月20日 14時開演 New Amsterdam Theatre
16日に見た「Aladdin」ですが、トニー賞ミュージカル助演男優賞の実力が見たくて、急遽,チケットを予約して見にいきました。ジェームス・モンロー・イングルハートが出演するかどうかもわからないのに、プレミヤム・チケットに300ドル以上も払って、賭にでました。公演日まで日にちがなくてe-Ticketsしか選択できず、慌ててGoogle翻訳を駆使して説明を繰り返し読み、、iPhoneに新しいアプリを入れたりなどして、焦りました。
当日は早めに行って恐る恐るプレイビルを開け、今日の出演者一覧の紙を見ると、そこにはジェームス・モンロー・イングルハートの名前がありました。愛でたし、愛でたし。
当然のことながら、スタンバイの人と台詞も同じ、やる小ネタも同じですが、会場に流れる空気が微妙に違います。ジェームスが会場をコントロールしていることがかっきりまかります。観客も安心してその流れに乗って楽しんでいることがよくわかりました。どこが違うとは言えませんが、明らかに違う。それが実力の差なのでしょう。
前から3列目のほぼセンターという至近距離でしたが、マジックカーペットの仕掛けはわかりませんでした。ただ、カーテンコールのスタンバイのため、カーペットが下手から上手に移動するのが文字の隙間から見えたので、基本的には吊っているのだとは思います。

写真は開演前の緞帳です。ここから、少し透けてから振り落とされると、砂漠の真ん中にジニーが立っていて,始まり始まりです。