作:寺山修司
構成・演出・振付:スズキ拓朗
出演 : 未唯mie、大鶴美仁音、野口和美、森ようこ、山口ルツコ、ジョディ、伴美奈子、七味まゆ味、阿萬由美、新部聖子、万里沙、蜂谷眞味、松山由佳、真弓瞬、清水ゆり、浅場万矢、増田ゆーこ、落合美香、今井夢子、千葉りか子、こもだまり
実はこの芝居を見るかどうかは、かなり迷いました。理由は、今まで寺山の戯曲の上演でおもしろいと思ったことが一度もなかったこと。「男装音楽劇」と銘打ってあり、宝塚のへたくそな真似で、自己陶酔的な芝居を見せられる可能性があること。前から気になっていた若手の劇団ロ字ックの公演が同じ日にあることなどです。
それらのマイナスな要素を振り切って見に行った理由は、ただ一つ、たまごPLINの「最愛!シャイクスピアレシピ」でとても面白い舞台を見せてくれたスズキ拓朗が演出だということでした。
見に行って、大正解。寺山ワールドというよりは、たまごPLINに通ずるところが多々あるスズキワールド全開で、特に前半は、羊ともネズミともつかない着ぐるみを着たコロスが歌うわ、踊るわの大活躍で飽きさせません。
この芝居の寺山的テーマは、「星の王子さまは、見えないものを見るのが大切だというが、それは見えるものを見ないということではないのか。」「星の王子さまがいつまでたっても大人にならないのは、虚構の中に入り浸っているからだ。」というものですが、この芝居でも、点子はラストに「うそだ。この壁のうしろに、青い空だなんて、ある筈がない……。
どうせあるのは、紙の星と、豆電球の天の川!
いつまでも、いつまでも、大人になれない『星の王子さま』!きたないものを見ないふりをするごまかしの童話!
うそでかためたお芝居のホテルの後ろに、ほんものの人生をみせて頂戴!」と叫び、舞台全面に張られていた白い幕が振り落とされて、その後ろで着ぐるみを脱ぎ、私服に着替えた出演者たちが、点子に名前を呼ばれて前に出てきます。そして、本物の星を見るために客席を通って退場していきます。
舞台暗転。
その間、イントレの上で虚構の塊のような女装の野口和美はひたすらうろたえるだけです。それはそうですよね、自分の存在を否定されているのですから。
しかし、舞台は再び明るくなり、点子が戻ってきて「野口和美さん」と優しく呼びかけ、手を伸ばします。それに答えるように手を伸ばす野口和美。
そこで暗転。終演。
ラストを、鈴木拓朗の優しさととるか、主宰者の顔を立てたとととるか、どちらでもかまいませんが、見事な幕切れでした。
確かに、寺山の毒のようなものは表面的にはかなり薄くなったように見えますが、ポリシーはしっかり受け継がれていると思いました。
11月にスズキ拓朗主宰のチャイロイプリンの公演があるようですが、そちらも是非見たいと思います。