2019年2月28日木曜日

岩井秀人 作・演出「世界は一人」

2019年2月27日 19時開演 東京芸術劇場プレイハウス
作・演出:岩井秀人
音楽:前野健太
出演:松尾スズキ、松たか子、瑛太、平田敦子、菅原永二、平原テツ、古川琴音
岩井秀人のキーワード、「ひきこもり」「トラウマ」などがちりばめられた舞台。
岩井秀人の世界観、「世界はほとんどクソだ。だけれども、希望もないわけではない。」がストレートに反映されていました。特筆すべきは、音楽。前野健太が唄うだけでなく、松尾スズキ、松たか子、瑛太も唄います。深くリバーブのかかった音で唄い、舞台に統一感と柔らかさを加えていました。この音楽の使い方はうまいです。

2019年2月26日火曜日

キラリふじみ・レパートリー 『Mother-river Welcome(マザーリバーウェルカム)-華麗なる結婚-』

2019年2月23日 18時30分開演 富士見市民文化会館キラリふじみマルチホール
作・演出:田上豊
出演:羽場睦子、伊藤昌子、櫻井章喜(文学座、用松亮、中林舞、斎藤淳子(中野成樹+フランケンズ)、田中美希恵、東毬絵、高橋義和(FUKAIPRODUCE羽衣)、静恵一(サミットクラブ)、日髙啓介(FUKAIPRODUCE羽衣)
『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』の続編とも言うべき芝居ですが、「映画でも面白かった作品の続編ほどつまらなくなる」という定説通り、残念な結果になりました。
『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』から5年後、三女の結婚とカラオケ詐欺師の2つの話が平行して進んでいくのですが、その構造が見えにくいのでなかなかストーリーに乗っかれません。さらに、この芝居のキーマンである母親の出番が少ないので、話にしまりがありません。
続編を書かなければいけなくなり、無理矢理話をひねくりだしたようにしか見えませんでした。

キラリふじみ・レパートリー 『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』

2019年2月23日 14時開演 富士見市民文化会館キラリふじみマルチホール
作・演出:田上豊
出演:羽場睦子 、伊藤昌子 、富山直人(オペラシアターこんにゃく座)、櫻井章喜(文学座)、 用松亮 、中林舞、斎藤淳子(中野成樹+フランケンズ)、 田中美希恵、鄭亜美(青年団)、高麗哲也 、松田文香、阿久津未歩(田上パル)、鈴木燦
3年前に見た「合唱曲58番」が面白かった田上豊の代表作、『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』を見ました。今回で4回目の再演だそうで、キラリふじみでの人気ぶりがうかがえます。
話は、ある日突然家にいないはずの息子が現れることからおこるドタバタ劇なのですが、田上豊の人間性を全面的に肯定した明るい脚本と演出を、小劇場界のベテラン、中堅、若手が入り乱れて演じる舞台はとても魅力的でした。特に全員オーバーアクションな演技の連続の中、ただ一人クールな芝居で要所要所をビッシと決める、母親役の羽場睦子が素敵でした。

OM-2「OPUS-10 アノ時のこと、そしてソノ後のこと」

2019年2月22日 19時30分開演 下北沢ザ・スズナリ
構成・演出:真壁茂夫
出演:佐々木敦、芝崎直子、金原知輝、ポチ、田仲ぽっぽ、辻渚、細谷史奈、高橋あきら、風祭右京、ふくおかかつひこ、坂口奈々、鐸木のりす、高松章子、梨本愛
ダンボール箱が積み上がった壁の前で本を読む少女。やがてダンボールの壁は大音響と共に吹き飛び、中から現れたのは、床も壁も真っ白な空間にロッカー、長机、パイプイスの更衣室のようなセット。その前で太った男が父親殺しの話を延々と喋り続ける。後ろでは、白塗りのコロスがうごめく。やがて白壁は崩れ、その後ろには憲法を墨書きした木パネルと、「平和憲法を守れ」と訴える群衆の姿が現れる。ラストは、降ってきた大量の血糊で全身真っ赤に染まる男。
これは私が40年前にわけもわからずに見ていたアングラ演劇そのものだ。確かに、映像など技術的にはアップデートされているが、手法としては全く変わっていない。「ストーリーを説明する演劇よりも、感情を爆発させる舞台を」というコンセプトはわかるが、私の中では、その段階を経て新たなストーリーを獲得するように進化してきたと思っていたので、いまさらアングラ演劇を見せられたことがショックだったし、若いときの自分を見せられたようで恥ずかしいような気持ちにもさせられた。

2019年2月19日火曜日

サファリ・P「悪童日記」

2019年2月17日 14時開演 横浜美術館レクチャーホール
原作:アゴタ・クリストフ『悪童日記』
訳:堀 茂樹(ハヤカワ文庫)
構成・演出:山口茜
出演:高杉征司、日置あつし、芦谷康介、達矢、佐々木ヤス子

アゴタ・クリストフの傑作小説『悪童日記』の舞台化作品です。小説の中のいくつかのシーンを抜粋して、5人の役者が台詞とストリートダンス的な動きで見せていくのですが、私は事前に小説を読んでいたのでストーリーがわかりましたが、読んでいない人は切れ切れのシーンの連続としか思えなかったに違いありません。
この小説の面白さは、戦時下のヨーロッパの片田舎で徹底的にリアリスティックに生き抜く双子と言うところにあるのに、それが全く見えてきません。
チラシの中の推薦文で誰かが、「これをアゴタ・クリストフに見せたい。絶対、喜んでくれるに違いない」と書いていましたが、私は見せない方がよいと思いました。

世田谷シルク「春夏秋冬」

2019年2月17日 11時30分開演 YCC ヨコハマ創造都市センター
構成・演出・振付 堀川 炎
出演:佐藤優子、武井希未(以上、世田谷シルク) 、石井 維、上田茉衣子、大竹ココ(□字ック/ユトサトリ)、大原富如(ユトサトリ)、柿の葉なら、佐々木実紀、新屋七海、中原百合香、平井絢子、堀内 萌(キリグス)、牧野栞奈、宮﨑優里
名前だけは前から知っていましたが、見るのは初めてです。勝手に「梅棒」の女性版をイメージしていましたが、「梅棒」よりはシリアスよりでした。「春夏秋冬」になぞらえて女性の一生を正面からとらえて、台詞とダンスでみせるというものでした。全員、白い着物に白い編み笠で、固有の役を演じるときだけ編み笠を取っていました。
印象的なのは、一生の中で恋愛も結婚もするのですが、相手役の男はいっさい登場しません。「男に左右されない女の一生」に対する強いこだわりを感じます。ラストは、80歳以上の主人公が冬の富士山に一人で登り、頂上で亡くなるというシーンで、痛快でした。

贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』

2019年2月16日 14時30分開演 横浜BUKATSUDO HALL
作・演出:山田由梨
出演:島田桃子、山本雅幸、田島ゆみか、大竹このみ、青山祥子
「贅沢貧乏」というのは素敵な名前だと思います。また、一軒家やアパートで長期公演をするなど、芝居を演じる場所に対しても問題意識を持っているラディカルな集団という印象もあります。初めて見たときは、そんなラディカルな集団なのに芝居の中身は結構普通じゃないかという印象でした。
今回は、半分同棲しているような男女が妊娠をきっかけに、二人の意識の違いが表面化していくストーリーです。よくある話ですが、後半、男女の立場が逆転し、男が妊娠したという設定にするっと入れ替わり、前と同じ台詞を男女が入れ替わって言い合うというかたちになります。すると、前半で男が戸惑いながらも女のためを思っていっていた言葉がいかに空々しいものであったかと言うことが明白になります。前半の最後の男は、狭いところに閉じこもって、うじうじとパズルをやり続けるのに比べ、ラストの女はいったん蹲るものの、すっと立ち上がってリンゴをかじりながら外に出て行きます。今の時代にふさわしいエンディングでした。
多分、タイトルの「わかろうとはおもっているけど」の後に続く言葉は、「だめでも私は一人で行く」なのでしょう。

岡崎芸術座「いいかげんな訪問者の報告」

2019年2月15日 17時開演 横浜CASACO
作・演出・出演:上里雄大
レクチャーパフォーマンスということなので、いわゆる演劇の公演とは違います。2014年と2016年の2回の南米訪問の報告会というかたちで、映像を交えながら日系移民の歴史や現在の姿が話されます。上里自身も、ペルー生まれであり、幼い頃に親の仕事の都合で日本に来てそのまま日本で育ったようです。現在でも祖母をはじめ、多くの親戚が南米で暮らしています。
その中の一人の遠い親戚の男性に会い、たまたま同い年だったこともあり、強いシンパシーを感じて、「ひょっとしたら、自分がこの男性だったかもしれない。日本でなく、南米で暮らしていたかもしれない」と思います。
この感覚が上里雄大の魅力だと思います。日本人でありながら日本人からはみ出した感性を持ち、それを肯定的にとらえている。今までよくわからなかった、岡崎芸術座の不思議な魅力の源を見たような気がしました。

2019年2月18日月曜日

ハイドロブラスト『幽霊が乗るタクシー』

2019年2月11日 14時開演 トーキョーアーツアンドスペース本郷
脚本・演出:太田信吾
出演:川﨑麻里子、宍泥美、森準人、椎橋綾那、昇良樹、大山実音
脚本・演出の太田省吾は映画監督で、チェルフィッチュの芝居に役者として出ていました。
「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」にでていたそうですが、どんな人だったか覚えていません。
東日本大震災の被災地石巻で、ゆうれいを乗せたタクシー運転手や、娘を亡くした母親などへのインタビュー映像とその再現ドラマで構成されていますが、テレビドキュメンタリーとしてもできの悪い作品でしかなく、演劇作品としては成立さえしていないように見えます。
現実としての映像と、それを昇華してイメージを膨らませるべきドラマの部分が単なる再現にしか見えなくて、やってる意味が理解できません。

隣屋「あるいはニコライ、新しくてぬるぬるした死骸」

2019年2月10日 20時開演 横浜STスポット
原案:レフ・トルストイ「光は闇の中に輝く」(訳:米川正夫)
脚本・演出:三浦雨林(隣屋/青年団)
出演:永瀬泰生(隣屋)、杉山賢(隣屋)、藤谷理子、宮本悠加
隣屋のWebサイトによれば、

レフ・トルストイ『光は闇の中に輝く』を原案に、新しい宗教と誰もいなくなった土地を描く。音楽と身体表現による生理的な感覚へのアプローチを試みる。2016年に短編として発表した作品をフルサイズで再演。

『光は闇の中に輝く』
大農園の主人ニコライはある日新しい宗教を求め、地位も金も家族も捨て始める。やがて生きるための全てをも打ち捨てようとする彼を、妻と僧侶が説き伏せようとするが…。
(レフ・トルストイ「光は闇の中に輝く」(訳:米川正夫))

ということのようだが、私にはよくわからなかった。劇中でお告げを聞くように携帯に耳をあてるシーンがあったが、あれが新しい宗教なのだろうか。
音楽というのは、俳優の一人がずっとキーボードやバイオリン、パーカッションなどで、BGMやSEのような音を出していたが、あれをさすのだろうか。
身体表現というのは、女優の一人がずっと踊っていたが、あれのことだろうか。
音楽は芝居の一部として理解できたが、踊りは芝居との関わりがよく理解できなかった。

2019年2月12日火曜日

お布団「破壊された女」

2019年2月10日 14時開演 横浜長者スタジオ
作・演出:得地弘基(お布団/東京デスロック)
出演 緒沢麻友(お布団)
キャラクターと称して、初音ミクのようなバーチャルアイドルやバーチャルユーチューバーのようなものにに扮した女優が、人間と架空のキャラクターの異差について喋りまくる一人芝居でした。
無意識のうちに架空のキャラクターというものが人間の延長線上にあるものだと思っていましたが(例えば、初音ミクはアイドルの1バリエーションだと思う)、ここでは人間と対立するもの、人間と異なるものと設定されていて、キャラクターの方から人間を問う構造になっています。ただ、キャラクターとして「私」といい、人間としても「私」と称するので、時々どちらの話をしているのか混乱します。
また、場面によってはプロジェクターで短い質問などのテキストを投影することがあるのですが、それが結構効いていて、質問することで相対化され空間が広がるような効果がありました。

国際共同制作『RE/PLAY Dance Edit』東京公演

2019年2月9日 19時開演 吉祥寺シアター
演出: 多田淳之介
振付:きたまり
出演:きたまり、岩渕貞太、Aokid、斉藤綾子、シェリダン・ニューマン(シンガポール)、ソポル・ソー(カンボジア)、カリッサ・アデア(フィリピン)、ジョン・ポール・オルテネロ(フィリピン)
今年に入ってから、集中力の低下が著しく、どの芝居を見ても芝居にピントが合うのに時間がかかってしょうがない。ひどいときにはピントが合う前に終わってしまうことさえある。
この『RE/PLAY Dance Edit』も最初はわけがわからない状態だったが、一人のダンサーに集中することで面白さがわかってきた。私が注目したのは岩渕貞太、舞踏というか武術の型のような動きをするダンサーで、ある意味わかりやすい。
8人のダンサーはそれぞれ違った動きをする。曲にあわせて動き、自分の振りが終わったところで倒れる。やがて起き上がり、同じ振りを始める。曲は繰り返され、繰り返すたびにだんだん音量が上がっていく。
ダンサーは国籍もダンスのルーツもばらばらで、それぞれの振りもバラエティに富んでいて、見ていて飽きない。曲が繰り返されるたび、繰り返される振りと変化していく振りができてくる。曲の音量に合わせて振りが変化していくのを見ていると、不思議な興奮を感じていく。
2015年に「快快」が岩井秀人の演出でオリジナルバージョンを上演したのを見ているが、その時のブログを読み返してみると、全く理解できなくて戸惑っているのがよくわかる。
オリジナルバージョンでは、役者が同じように動き回っていたのだが、その動きのパターンがわかりにくく、混乱しか感じられなかったのだと思う。
この Dance Editでは、各々のダンサーの出自による動き(舞踏、ストリートダンス、モダンダンス、カンボジアの民族舞踊、バレエなど)のバラエティが豊富で見ていてあきないし、わかりやすい。
ひとしきり踊った後、稽古後の雑談のていで、ダンサーたちの会話が始まる。その中で、各自のダンスのルーツ、夢、この演目への関わりなどが語られていく。やがて、また音楽が始まり踊り出すのだが、各自の振りにまるでカーテンコールのように客席に向かって直立する振りが加わっている。
ひとしきり踊り、そして本当に終わる。
オリジナルバージョンにダンスという要素を付け加えることで明確な切り口ができ、様々な国で繰り返し上演されてきたことで、普遍性が上がってきたのだと思う。ダンスが苦手な私にもとても面白い体験だった。

2019年2月9日土曜日

かもめマシーン「しあわせな日々」

2019年2月8日 19時開演 横浜 The Cave
作:サミュエル・べケット
翻訳:長島確
演出:萩原雄太
出演:清水穂奈美、伊藤新(ダミアン)
空間デザイン:白鳥大樹
美術:横居克則、山城裕美
私が一番好きな戯曲はサミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」なんですが、他のベケットの戯曲も観てみたいと思い、見にいきました。
ビルの地下にある会場のThe Caveは、普段はバーかカフェであろう、コンクリート剥き出しの空間にバーカウンターだけが設置してあるところで、その真ん中に現代美術的な鉄の半球が設置してあり、その上に役者が腰まで埋まってうつぶせに倒れています。やがて、非常ベルが鳴り、芝居が始まり、役者が喋りだします。どんどん、喋ります。なぜ、腰まで埋まってしまうことになったのかは一切わかりません。しかし、彼女はそれを嘆くことなく、この現状は「悪くない」と繰り返し話します。時々、その地面の下に住んでいるらしいウイリーという男に話しかけます。男は時々地面から出てきて新聞の求人欄を読み上げます。ウイリーは出てきても彼女の背後に位置し、彼女からは見えません。
やがてウイリーはいなくなります。彼女はそれに気づいているのかいないのか、どんどん喋ります。
一度暗くなりまた明るくなると、彼女は首まで埋まっています。それでも彼女は喋り続け、現状を「悪くない」と言い続けます。
ラストはウイリーが手の力だけで這って入ってきて悪戦苦闘の後、彼女のほほに手を触れるところで終わりです。
役2時間、ほとんど一人で喋り続ける役者の技量と集中力はたいしたものです。
しかし下世話に考えると、定年で一日中家にいる亭主に対して一方的に喋り続ける女房と生返事しかしない亭主のようにも見えます。
喋り続ける女房に愛想を尽かして亭主は出て行きますが、紆余曲折の果て、やはり古女房のもとに帰ってくる。
そんなストーリーに見えなくもありません。

2019年2月3日日曜日

はえぎわ「桜のその薗」

2019年2月1日 19時開演 下北沢ザ・スズナリ
作・演出:ノゾエ征爾
出演:井内ミワク、町田水城、鈴真紀史、滝寛式、竹口龍茶、踊り子あり、茂手木桜子、中薗菜々子、川上友里、鳥島明、富川一人、山口航太、ノゾエ征爾
周年記念公演で新作となると、面白くなりにくいというイメージがあります。その上、内容が脚本家の書けない悩みとなると、一層面白くなさそうです。
はえぎわの芝居は好きで何本か観ているつもりでしたが、細かいところはほとんど覚えていないので私の勝手な想像ですが、これまでの作品の様々な場面をつなぎ合わせて川上友里を狂言回しの役にして一本にまとめたのだと思います。20周年記念にふさわしいと言えば言えなくもありませんが、苦し紛れの感は否めません。
ただ、懐かしの名場面集というよりも各役者の現状が透けて見えるような気がするのは気のせいでしょうか。
役者で印象的だったのは、ストーリーを進めるために登場して用が済むとすぐに忘れられるとつぶやく、「脇役」をやった井内ミワクでした。