2015年12月2日水曜日

龍昇企画「平成駅前旅館」

2015年12月2日 14時30分開演 中野スタジオあくとれ
作:前川麻子
演出:塩野谷正幸
出演:龍昇、吉田重幸、冨澤力、藍原直樹、浅野千鶴、畑山佳美、前川麻子、ひらたよーこ、根本和史、桜井昭子、関根麻帆、中村榮美子、よこやまよしひろ、塩野谷正幸
Twitterで浅野千鶴が出演していることを知り、慌てて見にいきました。
浅野千鶴は、味わい堂々や池田鉄洋の表現さわやかの公演に出ているのを見て,前から気に入っていた女優でした。
狭いスタジオあくとれにベテラン、中堅、若手が11人入り乱れての公演でしたが、ベテラン俳優の良いところと悪いところが両方表れた芝居だったように思います。
良いところは、経験豊富なだけに各自が自分のテンポを持っていて、なおかつ相手のテンポにも合わせられて、無理のない気持ちよいテンポを作り出すことができる点が、第一にあげられます。悪い点は、よいところの裏返しにもなるのですが、何でも自分の領域に引きずり込んで処理しがちなところで,これが多すぎると舞台にみずみずしさがなくなってきます。
お目当ての浅野千鶴は、ベテランに遠慮しているのは、比較的サラリと芝居をしていましたが、あまり似ていないビートたけしの物真似が面白かったです。

2015年12月1日火曜日

湯ぶね「愛の水中花」

2015年12月1日 19時30分開演 池袋スタジオ空洞
企画・原案:和田瑠子
作・演出:松本哲也
出演:和田瑠子、久保貫太郎、森谷ふみ、川瀬絵梨、井内ミワク、加瀬澤拓未、森田祐吏
全く知らない女優さんの自主公演でしたが、チラシの推薦文を読むとかなりの天然系のようだったので見にいきました。
物語は、本人の実話を元にしているようで、自閉症の姉とその家族の気持ちの移り変わりを地道に描いたもので、どこといって変なところもないが,面白いかといえば、面白いとは言えない、よくある中途半端な話でしかありませんでした。和田瑠子本人は、ぽっちゃり系のよく言えば癒やし系の女優で、本人にあった役をやればそこそこ面白いかもと思いましたが、きっと根が真面目なんでしょうね、自分の話をしてしまう。小説家は処女作に自分の話を書いて,たいていそれが一番面白い。とよく言われますが、役者にはそれは当てはまらないと思います。

2015年11月27日金曜日

篠田千明「悲劇」

2015年11月27日 19時30分開演 吉祥寺シアター
作:斎藤恵太
補綴:岸井大輔
演出:篠田千明
舞台美術:佐々木文美
映像:いしいこうた
音響:星野大輔
照明:上田剛
振付・ステージング:中林舞
出演:竹田靖、辻村優子、福留麻理、AoKid、安藤尚之、石橋里美、狗丸トモヒロ、榎本純子、大寺亜矢子、小野彩加、貝塚伊吹、勝田智子、小出実樹、斎藤友映、佐久間麻由、佐藤英美、紫藤祐弥、寿里、杉林建生、葉丸あすか、前川遥子、森田有貴、邸木有佳、山田麻子、吉次匠生
元快快の中心メンバーで、現在はタイバンコックに住んでいるらしい篠田千明の公演でした。「悲劇」とは、「悲しい劇」ではなく「劇に非ず」という意味のようです。
チラシ裏のスタッフの言葉を読むと、各スタッフのアイデアを篠田千明がまとめ上げた作品ということのようです。いわゆる「集団創作」のリーダーが篠田千明ということでしょうか。
そうしてできあがった作品は、どこをどうとっても演劇でした。「悲劇ー劇に非ず」を演劇を超える新しい創造を目指している勝手に考えた私の思い違いでした。
残念ながら、演劇としてのできも必ずしも「よい」とは言えないものでした。

2015年11月26日木曜日

東葛スポーツ「ウラGBB」

2015年11月26日 20時開演 神保町SOBO
構成・演出:金山寿甲
出演:佐々木幸子、橋本和加子、西山真来、折笠慎也
チェルフィッチュ「God Bless Baseball」のドラマトゥルクを務めた金山寿甲がそれに触発されて、突然発表されたようにみえる公演でした。
しかし、今まで見た東葛スポーツの中では一番ストーリーがある公演でした。
新築マンションの見学に来た二組のカップルと案内の不動産屋の女性、なぜか壁面にはヤクルトの優勝を決める試合の映像が流れる。それにかぶさる異様にうまい佐々木幸子のラップ。中身は、まいどおなじみ、モッシュと呼ばれているらしい東葛スポーツのパターンでした。演出の思いつきででっち上げられたとしか思えない小道具の数々は、「手作り」という言葉から想像できるあたたかさがみじんもない寄せ集めのガラクタのようです。(褒めているつもりです)
確かに、ほかの誰もがやっていない新しいことをやっているけれど、その新しさが切り開く新しい地平は未だみえてこないというところでしょうか。
新しい地平が切り開けるかどうか、今しばらく見ていきたいと思います。

2015年11月25日水曜日

地点×空間現代「ミステリア・ブッフ」

2015年11月25日 19時30分開演 にしすがも創造舎
作:ウラジミール・マヤコフスキー
演出:三浦基
音楽:空間現代
出演:阿部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、河野早紀、小林洋平
演奏:野口順哉、古谷野慶輔、山田英晶
地点の芝居は大ホームランになるか,空振りになるか予測がつかないので、全て見にいく以外方法がありません。過去ホームランだったのは、「河童」、「光のない」、「三人姉妹」の三本だけでした。今回の公演も大いなる空振りでした。まず第一に、空間現代の音楽が下手くそなプログッレシブロックのようで、面白くありませんでした。また、地点の演技の特徴のひとつである会話もモノローグのように喋る事も徹底されていなくて、妙に浮ついた感じが全体に漂っていました。しかし、役者達はいつもと違って少し嬉しそうで、会話が会話として演じられることや、自分の台詞きっかけでバンド演奏が始まることが嬉しかったのかもしれません。
その印象はカーテンコールでも続いていて、演出の三浦基をはじめとした全員の「やりきった感」には、違和感を覚えました。
ロシア革命時の芸術家、マヤコフスキー、メイエルフォルドなどには、独特な魅力があるように感じます。演劇の新しい形を作ったという歴史的価値だけではなく、革命初期の高揚そのままに自分の才能を力一杯開花させたというところが主な原因だと思います。

2015年11月24日火曜日

チェルフィッチュ「God Bless Baseball」

2015年11月24日 19時30分開演 池袋あうるすぽっと
作・演出:岡田利規
翻訳:イ・ホンイ
出演:イ・ユンジュ、捩子びじん、ウィ・ホンヒ、野津あおい
岡田利規の造る芝居の登場人物は、いつもキレイに抽象化されている。全く、生活感が感じられない。今回も同様で,その上韓国人俳優が日本人を演じ、日本人俳優が韓国人を演じるという仕掛けを施し、劇中でわざわざそれを説明するという手間までかけている。
そこまで抽象化した登場人物達が日韓の野球のエピソードを語り、最後には舞台正面奥に吊られた花のようなトランペットスピーカーの表面が水で剥がれ落ち、木地がむき出しになる。それがアメリカだということなのだろけれど、それじゃ、何も言っていないのとおんなじです。
前にも書いたが、岡田利規の芝居は現実の切り方が問題で、その切り方に共感できれば面白いが、できなければ何もない。今回は、残念ながら何もない方でした。
ただ、字幕の問題はうまく解決されていて、舞台上下のスコアボード風のセットに,韓国語と英語の翻訳が投影される。これだと視線の移動が少なくて済むので、集中が途切れることもあまりありませんでした。
字幕が必要なとは、それを前提とした装置や演出が必要だということです。

2015年11月22日日曜日

贅沢貧乏「みんなよるがこわい」

2015年11月22日 10時30分開演 三鷹駅北口三鷹共同ビル2階
作・演出:山田由梨
出演:青山祥子、大竹このみ、田島ゆみか、山田由梨
贅沢貧乏という劇団名が面白い事と、「家プロジェクト」という尖った活動をしていたということで見にいきました。
「家プロジェクト」というのは、一般的な小劇場を借りての公演では、時間が限られていて作品を成熟させることができないとして、一軒家を借りてそこで稽古をしてロングランの公演を行い、作品を完成形に近づけるとの考えに基づき、2014年の1年間に3本の作品上演を行ったのというものです。
この三鷹での公演は、「家プロジェクト」以後、初めての外部での公演となるようでした。
貸し劇場のスケジュールに制約を受けたくないという気持ちはわからなくはありませんが、それは制作側の気持ちであり、見る側には関係ないことです。「家プロジェクト」の作品を見ていないので今回の公演と比べることはできませんが、この作品を見る限り、際だって変わっているところもなく、若い女性クリエーターの気持ちを可愛く表していました。強いていえば会場選びにその特徴が出ていて、普通のビルの1室が女性のアパートにしつらえてあって、外からの扉を開けてアパートに帰ってくるという演出から始まるというあたりでしょうか。
物語は、フリーターの女性が部屋に帰ってくるところから始まります。帰ってすぐ寝てしまうと、女性の心の3つの性格がベッド下から現れてしゃべり出します。主な性格は、人見知りで臆病で心配ばかりしている。もう一つは,向こう見ずで思ったことを後先考えずに実行してしまう。最後の1つは、前の2つの性格を受け入れてある種悟っているような感じでしょうか。
その3つの性格の会話から、過去の後悔、将来の不安などが語られていきます。
よくあるといえばよくある設定ですが、どこかかわいらしいところが救いです。
頭でっかちな美大生という感じはぬぐえませんが、機会があればまた見たいと思います。

パリ市立劇場「犀」

2015年11月22日 15時開演 さいたま芸術劇場大ホール
作:イヨネスコ
ベケットと並ぶ不条理劇の2大巨頭であるイヨネスコの作品ということで、わざわざ与野本町まで見にいきました。不条理劇というと、ベケットと別役実のせいでほとんど何もない舞台の上でぼそぼそ喋るというイメージしかなかったのですが、「犀」は違いました。格調高いのであろうフランス語で、2時間以上しゃべり続けられて、それを聞いているだけでとても疲れました。装置も大がかりで、2階屋の引き枠を駆使して事務所やアパートをあらわすなど凝った演出を見せてくれました。特に、事務所のシーンで上下の引き枠の2階の床を傾斜させる演出などは、どう考えても意味がないとしか思えず、笑ってしまうほどでした。
不条理というよりは全体主義へのプロテストという方に演出の重きが置かれていて、それに即したアンサンブルの動かし方などはあざやかなものがありました。
演技では、主人公の親友ジャンが犀になっていくところの芝居は、うめき声と体の動きだけで犀になっていく過程を見せきり、言葉の壁を越えることに成功していました。
今回は事前に戯曲を読み、粗筋を頭に入れてから見たのですが、やはりどうしても字幕が気になりついついそちらを見てしまって芝居に集中できませんでした。外国からの招聘作品を見るにあたって、字幕の存在は難しい問題です。

2015年11月17日火曜日

ロロ「いつだって窓際であたしたち」

2015年11月17日 19時30分 横浜STスポット
策・演出:三浦直之
出演:亀島一徳、森本華、大場みなみ、島田桃子、多賀麻美、新名基浩
高校演劇大会のフォーマット、1)上演時間60分以内、仕込時間10分以内 2)消え物、危険物の使用禁止 3)照明、音響などの操作は,現役高校生もしくは顧問に限るに準じた,ロロの新しいシリーズの第1作でした。
ある高校の昼休み、モテナイ君が窓際の自分の席でいつものシューマイ弁当を食べようとすると、知らない女子が座っている。もちろん、話しかけられないモテナイ君。というところから始まるストーリーですが、1時間という時間はあまりにも短く、イントロから始まって、Aメロ、Bメロといってサビに行く前に終わってしまう感じで,物足りません。
高校生活を「実在するファンタジー」といいきって作劇する三浦直之のナイーブさは大好きですが、それを満喫するには1時間は短すぎました。

2015年11月16日月曜日

カムカムミニキーナ「>ダイナリィ」

2015年11月16日 19時開演 座・高円寺
作・演出:松村武
出演:山崎樹範、清水宏、夕輝壽太、莉奈、田端玲実、未来、松村武、藤田記子、亀岡孝洋、米田弥央、長谷部洋子、吉田晋一、田原靖子、佐藤恭子、元尾裕介、藍山彩、正木航平、芹井祐文、本間茂樹、福久聡吾、菊川耕太郎、渡邊礼、大倉杏菜、芦原桐子、柳瀬芽美
劇団を旗揚げして25年だそうですが、私がカムカムミニキーナを見るのはこれが最初です。作・演出の村松武は他劇団への客演で何度か見ていますし、今回は出ていない八島智人はテレビでおなじみです。
村松武は日本の民話、神話に造詣が深いらしく、狐憑きを基にした新興宗教の存亡とそれにまつわる様々な人々の欲望を、時空や虚実にかかわりなくぶちこんでくるという混沌とスピード感にあふれる芝居に仕上げていました。その仕上がりは、面白いといえば面白い、結構好き嫌いの分かれるものでした。私にとっては、「面白いものではあるが所々に見える真面目さが気になる。もっと、ぶち切れてもよいのではないか。」というところでしょうか。もっとも下手にぶち切れると,げんこつ団のようになってしまうのかもしれません。
元々この芝居を見る気になったのは、清水宏が出演するからでした。彼の役柄は、記憶喪失の依頼者の僅かな手がかりを基にストーリーをでっち上げ、事件の解決を目指す演劇探偵を副業とする劇団「演劇革命」の主宰者にして,作・演出家というもので、その無理矢理な設定を具現化するのには、彼の熱量と勢いだけで舞台を成立させるキャラクターはぴったりです。というか、彼のためにあてがきされたとしか思えません。
しかし、いつもと少し様子が違いました。スタンドアップコメディの時は、彼の熱量と勢いは直接観客にぶつけられ、その反応を確かめながら話を進めていくので、客の反応が鈍いときには手を変え品を変え、時にはしつこく同じ話を繰り返したりして、舞台が進んでいきます。これが芝居となると、彼の熱量と勢いは周りの役者にょって,一も二もなく承認されてしまいます。そうしなければ、話が前に進んでいかないので当たり前です。その手応えのなさに、清水宏は少し寂しそうというか、物足りなさを感じているように見えました。
なにしろ、国家表現規制局や警察の弾圧に対し、対抗策を次々にでっち上げて仲間とともに実行するという狂言回し的な役柄なので、いつものようにサイドストーリーで他の役者とはひと味違う違和感を漂わせて、キラリと光ってみせるというわけにはいかなかったようです。

2015年11月5日木曜日

ARICA「Ne ANTA」

2015年11月5日 19時30分 三軒茶屋シアタートラム
原作:サミュエル・ベケット
演出:藤田康城
出演:安藤朋子、山崎広太
もと転形劇場の女優安藤朋子とダンサー山崎広太による公演でした。演劇というよりは、演劇とダンスを包括するようなパフォーマンスアートといえると思います。
中年の男がベッドに座っている。窓の外を覗き、冷蔵庫の中を覗き、いつの間にか開いている扉を閉める。それを何度も繰り返す。そのたびにどこからともなく女の声がある女性の思い出を語る。やがて物陰から女が現れ、男の後をつけ回すようになる。最後にまるで男の心の中に入ってくるように、その女が扉から侵入してきたところで終わる。
山崎広太の動きは,ある時点でギアが変わったように変化します。まるで重力を感じていないように動き回り、びっくりしました。
それにしても、私はこのようなパフォーマンスを語る言葉を持っていないことを痛感しました。なにか抽象的な概念を具現化しようとしているらしいということはわかるのですが、それが何かということが言葉にできません。

げんこつ団「ボリショイ・ライフ」

2015年11月4日 19時開演 下北沢駅前劇場
脚本・映像・音響:一十口裏
演出:一十口裏、植木早苗
振付:植木早苗
出演:植木早苗、春原久子、河野美菜、大場靖子、池田玲子、望月文、川端さくら、久保田琴乃、山口奈緒、杉森多恵子、三明真美、鷹羽彩花
また1つひどい芝居を見てしまいました。げんこつ団という劇団名の面白さだけに惹かれて見にいきましたが、かなりのひどさでした。
台詞は棒読み、動きは右手と右足が一緒に動くようなぎこちなさ。ストーリーと関係なく中・高生が思いつくようなギャグが挿入されて、しかも炸裂せず少しも笑えない。
約2時間、全く面白くなく修行のような芝居でした。
帰宅してから調べたところ、1991年に結成され20年以上にわたって活動している劇団で、どうもあのひどい芝居はネライどうりらしいのです。公式ホームページのブログなどを読んでいくと、操り人形芝居のような表現を目指しているらしく、役者の個性よりは役を明確に役として表現していくことを重視しているようで、その結果があの芝居のようです。しかし、見て面白くなければ見にいく価値もないわけで、客が少なかったのもうなずけます。
鳥公園や快快など女性演出家の芝居が理解や共感できないことが気になっていましたが、ここにきて全く違うタイプの理解不能な女性演出家が現れたました。
鳥公園や快快はふわふわしてつかみどころがわからないという印象ですが、げんこつ団は堅すぎて歯が立たないという感じです。
頭でっかちな学生劇団のまま、20年以上芝居をやってきた希有な例かもしれません。

CHAiroi PLIN「三文オペラ」

2015年10月27日 15時開演 三鷹市芸術文化センター星のホール
作:ベルトルト・ブレヒト
演出・振付・構成:スズキ拓朗
出演:宮崎吐夢、ジョディ、エリザベス・マリー、スズキ拓朗、NIWA、田中美甫、今井夢子、増田ゆーこ、本山三火、池田仁徳、鳥越勇作、荒巻大道、新部聖子、岩坪成美、安部萌、伊藤直美、岩見和典、大橋昌広、肥沼勇人、志々目遙菜、清水美沙都、下西春奈、芹川直子、東ゆうこ、福井花、松隅加奈子、中井沙織、荒木亜矢子、渡部彩萌、小林らら、土屋杏文、三木万侑加、大塚由祈子、鷹野梨惠子、柏木俊彦、清水ゆり
「踊る戯曲シリーズ」も、「Friends」、「マッチ売りの少女」ときて3本目、当日パンフレットによれば「集大成」だそうですが、私の目には集大成失敗に見えました。
戯曲を踊るということは戯曲の解体に他ならないと思うのですが、前作2本は、「見知らぬ他人が家庭に侵入してくる」という抽象性の高いテーマであり、その抽象性が戯曲の解体とダンスによる再構築とうまくフィットしていたのですが、「三文オペラ」ではそうはいきません。
三文オペラは風刺劇であり、悪党大活躍の活劇の要素も強いからです。ストーリーは具体的で,それを面白くしていくためにはスピードと迫力が必要です。今回はそれを多数の役者を登場させることで乗り切ろうとしたようですが、成功はしていません。ザワザワした印象だけが残り、いつものステージングの見事さによる爽快感もありません。多分、オーディションで選んだメンバーといつもの役者陣との差が原因だと思います。


てがみ座「地を渡る舟」

2015年10月26日 19時開演 池袋東京芸術劇場シアターイースト
作:長田育恵
演出:扇田拓也
出演:清水伸、俵木藤汰、三津谷亮、伊東潤、川面千晶、近藤フク、福田温子、松本紀保、西山水木、今泉舞、箱田曉史、岸野健太、中村シュン、横山莉枝子、酒井和哉、峯崎亮介、谷恭輔、須田彩花
KUNIO12の「TATAMI」の時にも思ったことですが、よい台本とよい役者がいれば演出の仕事は新たな演出プランを追加することよりは、役者間の交通整理をしつつ、台本の意図を役者に伝えていくことに徹したほうが、よい芝居になりやすいということです。
演出家によって付け加えられたであろう、場面転換時の維新派のような群衆の往来や、ほっかむりをして半纏やどてらを着た名もなき民衆を表すような姿をした役者による転換、老農民と宮本常一の尾根道での会話を表しているのであろう、高さの違う丸イスを前に順繰りに送りながらそれを伝っていきながら会話するシーン、極めつけはラストの戦後すぐの群衆の往来が、段々現代の服装をした人々にすり替わっていくシーンなどが、芝居の内容を関係ないといいませんが,違和感を感じざるを得ない不要なシーンでしかありません。
芝居の内容は、渋沢敬三と宮本常一を中心に戦前から戦中にかけて戦争への熱狂とはうらはらな、地に足をつけて民俗学を通じて日本の原点を探す活動を描いたもので、昔の俳優座が好きそうな題材です。確かに,古き良き「新劇」を見ているような感じがして、演出としてはそれがイヤで様々な演出を考えたのであろうと推察できます。
しかし、台本がよくできているだけに小手先のプランを追加したくらいでは太刀打ちできなかったようです。
演出の扇田拓也は、オノマリコの「奇跡の年」で言葉の美しさを生かした端正な演出が記憶に残っていますが、ある種抽象的なオノマ台本と違い、あくまでも具体的で史実に基づいたこの芝居では、うまくフィットしなかったようです。

2015年10月26日月曜日

電動夏子安置システム「この中から3つ」

2015年10月21日 19時30分開演 下北沢ステージカフェ下北沢亭
脚本・構成・演出:竹田鉄士
出演:小原雄平、道井良樹、岩田裕耳、横島裕、新野アコヤ、片桐俊次、武川優子、渡辺美弥子
結成15年になる劇団ですが、変わった名前でチラシを見た記憶はあるのですが、それ以外は全く予備知識なしで見にいきました。
当日パンフによると、結成当初脚本の書き方も知らなかった主催者は、辞書から3つの言葉を適当に拾い出して、それを基に物語を作るということをしていたそうです。その無理矢理なストーリーを可能にするための設定や世界観を後付けすることで、変な喜劇ができあがることになったそうです。いってみれば、落語の三題話の演劇版でしょうか。
15周年にあたり、初心に戻って3つの言葉を選んでもらい、それを基に13編のショートストーリーができあがりました。
できあがった物を見てみると、確かに奇妙な設定やゆがんだ世界観を感じるのですが、だからといって面白いかといえば,そうでもない。小器用にまとめるある種の才能はあるとしても、だからといって全て面白くなるものでもない。という、ごく当たり前の結論にいなってしまいます。
役者では、「ある女」シリーズ3本で一人芝居を演じた渡辺美弥子が、見ている者の気をそらさない巧みな話術で面白かったのですが、ワンパターンなので3本も見せられると飽きてきます。

2015年10月20日火曜日

ペテカン「この素晴らしき世界」

2015年10月7日 19時開演 池袋あうるすぽっと
作・演出:本田誠人
出演:濱田龍司、齊田吾朗、四條久美子、羽柴真希、長峰みのり、添野豪、本田誠人、谷部聖子、小林健一、帯金ゆかり、長野真歩、市川喬之、柳家喬太郎、田中真弓、大治幸雄、桑原裕子
結成20周年になる劇団だそうですが、全く知りませんでした。ただ、桑原裕子がでているということで見にいきました。
桑原裕子は奮闘していて面白かったのですが、芝居としては面白くありませんでした。劇団のモットーは、「映画のような芝居を」ということで、これは難しいことはいわないで映画のように喜楽に見に行ける芝居をやりたいということだそうです。
難しいことは言わなくていいから、もっと、もっと面白くしてくれ。この芝居の料金は4000円です。普通の映画は1800円ですから、少なくとも2倍は面白くないと困ります。
だいたい、ラストにうまくもない楽器演奏で、「この素晴らしき世界」を演奏して、大団円と思うような感性は信じられません。
この芝居の収穫は、噺家の柳家喬太郎です。どのような経緯で出演することになったのかはわかりませんが、ひとつの芸を身につけた人の舞台上での存在感は、素晴らしいものがあります。周りがどうであれ、その存在感は揺るがない。古典芸能を身につけた人によく見られるリアリティがありました。
もう一人、動物電気の小林健一は敢闘賞でしょうか。前回見た拙者ムニエルでも敢闘賞もののがんばりを見せていましたが、今回も空回りする元気を面白く演じていました。

ロ字ック「鳥取イブサンローラン」

2015年10月6日 19時30分開演 下北沢シアター711
作・演出:山田佳奈
出演:堂本佳世、小林小倫、小川夏鈴、遠藤留奈、日高ボブ美、山田佳奈、那木慧、鈴木理学、圓谷健太、山田ジェームス武
一番印象的だったのは、ロ字ックの制作によるであろうTwitterのこの芝居の感想のリツィート攻勢でした。こまめにエゴサーチしてリツィートしているらしく,一時期、私のタイムラインは鳥取イブサンローランの感想であふれかえりました。それによると、「女性のいやなところを余すことなくさらけ出し、観劇後も体の震えが止まりませんでした。」とのことで、それだけ読むと大傑作のように思えます。
実際見てみると、それほどのととはないという感じです。確かに、「言いたいことはある。でも、どう言っていいかわからないまま、芝居にしてしまった。」というのが正しいところだと思います。
主人公の女性の「自分の性格のいやなところを考えると、うわーという感じになる。」という台詞などは、私が男だからもしれませんが、「なんじゃ、それ?」という感じにしかなりません。
決定的にまずいのは、手首を切って入院していたチーママ(山田佳奈)が復帰したウエルカムパーティーで、「私はこういう生き方しかできないから」という前置きつきで店の女の子達に「私のお客さんと寝ただろう。」と,問い詰めるシーンです。ここで今まで本音とお愛想が入り混じった生ぬるい空気が、一気に本音同士がぶつかり合う緊迫した空気に転換しなければいけないのに、山田佳奈の芝居が下手すぎてグダグタになり、壁をぶち破る激しい芝居も、段取りにしか見えなくなってしまいました。
当日パンフに作・演出の山田佳奈がご挨拶として、「初演の台本を読み返すと、ハチャメチャだったんだなと思う。行き過ぎた自意識と未熟な技量。パンクだった。自分のことを理解してくれない大人に,唾を吐く気持ちも強かった。でも、今は、そういう感情を忘れつつあるのです。葛藤することはまだまだ絶えないけれど、それでもいろいろ許すことができるようになりました。」と、書いています。
これを読んで芝居を見ると、初演の方が面白かったのではないかとさえ思えてしまいます。言いたいことを表現できる新しい方法論も見つけられないまま、年だけ取ったのかもとも思えます。

木ノ下歌舞伎「心中天の網島」

2015年10月5日 19時開演 こまばアゴラ劇場
作:近松門左衛門
監修・補綴:木ノ下裕一
演出・作詞・音楽:糸井幸之介
出演:伊東沙保、小林タクシー、島田桃子、武谷公雄、西田夏奈子、日高啓介、若松朋茂
洋の東西を問わず、古典を演じるのは難しいことだと実感しました。
杉原邦生があまり好きではないので見にいかなかった木ノ下歌舞伎ですが、今回、演出がFUKAI PRODUCE 羽衣の糸井幸之介であること、伊東沙保が出演していることで見にいきました。
今回の上演では現代語と七五調の台詞、さらに歌まであって、観客を楽しませてくれるのですが、問題は七五調の台詞です。役者に古典の素養があるか、もしくはそれに変わる何かがないと,ただ怒鳴ったり上滑りなったりするだけで、台詞が聞こえてきません。その点、合格なのは伊東沙保と武谷公雄の二人だけでそれ以外は全然だめでした。この差はひとえに役者の技量の差でしょう。
オープニングの歌で、丁稚役の若松朋茂が自分のソロパートの頭で大きく音を外して歌い出したときにはどうなることかと思いましたが、その後は何とか持ち直して進み出したときには、密かにほっと胸をなで下ろしました。
古典では、様々にディフォルメされたキャラクターをリアリティを持って演じることが要求されると思うのですが、七五調と現代語の入り混じったこの形式では、それがいっそう困難になっているようにも感じました。
一部では、この木ノ下歌舞伎の意義を高く評価する動きもあるようですが、私にはあまり意義が感じられませんでした。

清水宏「清水宏の世界で汗をかく!!〜アメリカ・カナダ・エジンバラ コメディーツアー奮闘記」

2015年9月30日 19時開演 渋谷シブゲキ
作・演出:清水宏
出演:清水宏
今年の夏4ヶ月にわたるアメリカ、カナダ、イギリスを股にかけたコメディーツアーの報告ライブでした。前日がアメリカ、カナダ編で、私の行った日はイギリスエジンバラ編でした。
冒頭で、今年からストーリーテリングというスタイルを始めたこと、そのストーリーテリングがアメリカ、カナダでは大受けで,カナダのあるフェスティバルでは賞まで取ったことを話し、エジンバラでの話に移ります。
5年目となるエジンバラでは油断と慢心とチラシの印刷が遅れるというアクシデントに見舞われて,さんざんだったことが延々と語られていきました。
すごいと思ったのは,聞くだけでも辛い話を長々と2時間も話して、悲しい話だけれども笑える話になっている,構成力と話術です。一人で2時間話し続けるだけでもすごいことなのに、山あり谷ありの構成で聞いてて飽きませません。
思いつきで話しているように見えますが、練りに練った台本があるに違いありません。
ラストは長いつきあいの映像作家との仲違いを語り、今後一緒にやっていくかどうかの選択を迫るというドラマチックな形で終わります。単に面白いだけでは終わらない、充実した2時間でした。
しかし、私が本当に好きな清水宏は芝居をしている清水宏です。本人は芝居のことを「愛しているけれども、憎んでもいる。」と言っていました。私にとっては、その芝居の中に完全には同化できないことにいらだちを感じ、また申し訳ないとも思いながら演技している清水宏を見るのが好きです。11月にカムカムミニキーナに客演するので、是非見にいこうと思っています。
最後に、どうでもよいことですが、清水宏は矢沢永吉によく似ています。本人も自覚があると思いますが、ふとした横顔や、しゃべり方がそっくりです。

2015年10月5日月曜日

カタルシツ「語る室」

2015年9月21日 18時開演 東京芸術劇場シアターイースト
作・演出:前川知大
出演:安井順平、中嶋朋子、盛隆二、大窪人衛、板垣雄亮、浜田信也、木ノ下あかり
イキウメの別働隊、カタルシツの公演を見にいきました。
これまでのカタルシツは一人芝居ばかりやってきて、モノローグの可能性を追求しているのかと思っていましたが、今回は7人が出演する普通にイキウメらしいSF的な設定の芝居でした。
これはイキウメの芝居の弱点、「SF的な設定のため、どうしても劇中で説明することが増えてくる、うまく台詞の中にちりばめられたときはよいが、往々にして説明のための台詞になってしまいしらけてしまう。」を解消するために、カタルシツで得た一人語りのノウハウを使ってみようとしたテスト公演ではないでしょうか。
結果は一定の成功を収めていて、そんなにしらけることもなく、スムーズに芝居は流れていきました。ただ、モノローグの得手不得手はあるようで、安井順平と占い師役の板垣雄亮は問題なくこなしていましたが、盛隆二や浜田信也あたりは少し辛いところもありました。もっとも、一人語りの向き不向き
は役のキャラクター設定とも密接な関係があり、いわゆるクールな性格設定の役は自分を客観視して話しても無理がありませんが、熱中系のキャラクターには無理が見えます。
これで一定の成果を上げたと見えるカタルシツは、今後どうなっていくのでしょうか?
カタルシツの次の公演はないかもしれません。